昨日は自宅で「ジェニーの記憶」を鑑賞。
2018年のアメリカとドイツの合作作品。
48歳になるドキュメンタリー監督のジェニファー・フォックスの元に、ある日、母親から一本の電話が入る。
母親は、ジェニファーが子供の頃に書いたある文章と手紙の数々を発見し、
娘の事を心配して電話をかけてきたのだった。
それについて、当初は「子供の頃の単なる創作」と、
適当にはぐらかそうとしていたジェニファーであったが、
そうは言っても心に何かしらの引っかかりを覚えた彼女は、
その文章と手紙を手がかりに自身の記憶を辿っていく。
かつての知人からも当時の話を聞きだしたりしていくうちに、
彼女が思い出した「闇に覆われた記憶」とは・・・というストーリー。
この映画は、児童の性的虐待という、
社会において極めてセンシティブな問題の一つを扱っており、
監督、脚本、製作を務めるジェニファー・フォックスの、回顧録とも言える。
主人公ジェニファーは13歳の頃、乗馬教室に通っていたのだが、
彼女は乗馬の教師である女性ジェーンと、
フィジカル面でのトレーニングを担当するコーチの男性ビルに対して、
全幅の信頼を寄せており、そして人間的にも尊敬していた。
ジェーンとビルは付き合っていたのだが、
ビルは離婚して独身の身であったのに対し、
ジェーンには夫と子供がおり、
2人は不倫関係にあった。
ここまでなら大人の世界の話であって、
乗馬の習得に勤しむ13歳のジェニファーには、むしろ関係のない事とも言えるのだが、
タチの悪いことに、
ジェーンとビルは、2人して教え子たちを性の発散の対象として扱う、
歪んだ性癖を共有していたのである。
その餌食となってしまったジェニファーであるが、
このような話はスポーツ界において、実はレアケースと言えるものではなく、
近年、被害を受けた当事者たちの勇気ある告白により、
隠されていた事実が次々と明るみになってきているのだ。
「スポーツ 性的虐待」というワードでニュース検索してみると、
次から次へと、
上の画像のような類のニュースの見出しが飛び込んでくるのを確認できるだろう。
僕もいつだったか、NHKで放送された「BS世界のドキュメンタリー」という番組で、
この問題を取り上げた回を見たのだが、
18歳になる前にプロアマ問わず、およそ7人に1人のアスリートが、
指導者から何らかの性的虐待を受けているといったデータもある、
という内容に衝撃を受けた。
スポーツの世界で夢を追う若者にとって、
コーチやトレーナーといった、監督する立場の人間の権力は絶対的なものであり、
逆らうという選択肢は極めて少ない。
その弱みにつけ込み、若者たちの心と肉体を蹂躙(じゅうりん)してきた大人が、
表向きには「名コーチ」や「カリスマ指導者」として、
世間からもてはやされていたりするのである(もちろん大多数の監督的立場の人々は、まともである事は間違いないだろう)。
想像しただけでも、反吐が出るような醜い現実である。
虐待、暴行を受けたアスリートたちは、
一生消える事はないであろう心の傷を負うことになる。
スポーツというものは、
主にメディアによって、
とかく「平和の象徴」や「健康の象徴」、
「限界に挑み、それを乗り越える人間の素晴らしさ」というイメージを前面に押し出してくる傾向がある。
多くの人は、アスリートたちの姿に感動し、
活力を与えられたりするので、
それはそれでスポーツの持つ一つの美しさではあるのだが、
一部にこのような「闇」が存在しているのである。
本当に嫌な話だ。
映画の演出的側面について、
僕の受けた印象を語らせてもらうと、
前半がけっこう退屈である。
そして、ところどころで
「現在のジェニファー」が、
記憶の中で登場する、幼い頃のジェニファーも含めた当時の関連人物たちに
「インタビューするようなかたちでの問いかけ」をしていく、
という演出がなされているのだが(どういうことか、ちょっとわかりにくいと思うが、気になる人は映画を見てみてください)、
これが僕の目には余計に思えた。
「ん?なんか急にカメラ目線で喋りかけてきたぞ?」となったのだが、
はっきり言って、この演出は要らなかったと思う。
あとは、
「これ、子役の子に、こんなんさせて大丈夫?」というセックスのシーンであるが、
もう先に言っておくが、
「一部のシーンで成人女性を代役にして撮影している」ということが、
エンドロール前の注釈で提示されるので、
これに関しては見終わってから、安心(?)した。
ただ、これって・・・・、
(こんなこと書いていいのかな・・・・?)
この少女とのセックスシーン(さほど詳細な描写はしていない)に期待して、
あるいは目当てにして、見る輩が少なからずいるんじゃないか?
・・・いや、いるんだろうな・・・・と僕は思ってしまい、すごく複雑な気分になった。
監督は勇気を持って、問題提起のために作ったであろう映画であると思うのに、
そんな目的でこの映画を鑑賞しようとする輩がいるとしたら、本末転倒である。
まあ、世の中には色んな性癖の人がいるので、(僕には考えられないが)そういう目的で見る人がいるんでしょう。
ただ、百歩譲ってそこまでにしとけよ、と(本音は「やめろ、気持ち悪い」)。
実際に行動に起こさない事を祈る。
あと細かいところでいうと、
ジェニファーも含め、
何人かの人物の現在の顔と、若年期の顔が違いすぎである(似ている人もいたが)。
これは仕方ないっちゃあ仕方ないのだろうけど、
もうちょっと何とかならなかったのかな?と思った。
特に主人公のジェニファーにおいて、それが顕著で、
もう48歳のジェニファーと、10代のジェニファーが全然似ていない。
「どう成長したら、この顔になるねん?」というくらい似てない。
少なくとも僕の目にはそう見えた。
最後のオチも、釈然としないモヤモヤ感があって、僕はあまり好きじゃないかな。
最近、東谷義和という人が色んな芸能人の暴露をしてかなり話題になっているが、
ジェニファーに対しても、
「YouTubeで、全部ぶちまけたったらええねん」などと思ってしまった。
僕の100点満点評価では、68点。
多くの人に、実はこういう事実があるんだよ、と知ってほしい気持ちが湧き起こる反面、
人におすすめできる映画ではないな、という気持ちもある。
僕としては少し辛めの評価になってしまったが、
このような作品が存在する意義は大きいと思える一本。
という事で、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。