「ラブリセット 30日後、離婚します」を鑑賞。
100点満点で、77点。
※今回もネタバレありです。未見の方はご注意。
離婚調停中の夫婦が交通事故に遭ってしまい、二人同時に記憶喪失になってしまう話。
憎しみ合っていた二人だが、記憶喪失になったので、まっさらな気持ちの男と女に戻って再び恋が始まる・・・という展開は誰にでも予想がつくだろう。
しかしこの作品の面白さは、夫婦のみならず、二人の家族同士もウマが合わないので、お互いの家族の縁を切るために、二人のそれぞれの母親達が、憎しみ合う夫婦の記憶をなんとしてでも取り戻させて、離婚を成立させようと企てるところにある。
コメディ映画としては、非常に手堅い笑いの取り方、要するに、コメディの教科書に則ったかのようなお手本的な落とし方に溢れており、
発想の突飛さや斬新さに驚くようなネタは見当たらないが、
テンポ、リズム、俳優の演技力がしっかりしているので、個人的に大笑いする場面はなかったものの、最後まで飽きずに楽しめるものがあった。
ただ、ちょっと前に見た「宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました」という韓国コメディでも感じたことだが、僕がもし韓国語を理解できている人間なら、もっと笑える場面があったとも思う。
これが、外国のコメディを評価する上で難しいところで、やはりそこで使われている言語を、翻訳に頼らず、その言語のままに受け取れるのとそうでないのとでは、受け手の笑いの質に、大なり小なりの差が生まれてしまうはず。
記憶を失った夫が昏睡状態から覚めて言葉を発すると、
なぜか韓国の標準語ではなく、どこかしらの地方の方言を使い始める、というシーンでは、
それを「すんまへん」や、「ここはどこでっか?」的な関西弁の日本語字幕にして、日本人鑑賞者にもニュアンスを伝えようとする翻訳者の工夫(苦労ともいえよう)が垣間見えたが、
やはりもうそれだけで、韓国語ネイティブの人に比べ、我々日本人が受け取った「笑いの質感」は、オリジナルとは違うものである、と僕は思うわけである。
もちろん、そのシーンは面白いと思ったが、ダジャレや言葉遊びの翻訳などは、本当に翻訳者泣かせだと思うし、
また僕もそういう台詞が出てくる度に「ああ、ここは翻訳者さん、難しいところやったろうなあ」という思いが一瞬頭をよぎったりするので、
もうその時点で、そのシーンでの表現を「純度100%で受け取れていない」事に、微かなモヤモヤを抱いたりするのである(←相変わらずめんどくせえ客だな)。
とまあ、大半の人は気にもしていないであろう事が気になる自分ではあるが、ひとまずそれは置いといて、
映画のテーマそのものから感じた感情を言わせてもらうと、
「やっぱり結婚ってリスキーやな・・・てか、この地獄展開が自分にも起こる可能性があると思うと、今も独身でいることに感謝します」という感じである。
ここで急に自分ごとで恐縮なのだが、先日、会社の事務所で何人かの同僚と、仕事関連の話も交えた雑談をしている時に(「会議」というレベルではない)、その中の一人が急に、掃除機をかけ始めたのである。
あの時、「え?なんでこのタイミング?」と思ったのは、僕だけではないはず。
喋っている人間同士の間もズンズン掃除してきて、「ちょっとすいません」などの一言も無し。
無言でクリーナーのノズルを割って入らせる「掃除機無双」に、僕は別の同僚二人と「(ちょっと空気読めよ)・・・」なアイコンタクト。
僕の勝手な予想だが、掃除機をかけ始めた同僚は、もしかしたら話の輪に入れていない腹いせに掃除機を稼働させたのかもしれない(いや、これはわからん。考えすぎかも。けど、話の輪に入っていなかったのは事実)。
あの時は、誰も「あの・・・、別に(掃除機かけるの)今じゃなくてもいいんじゃないですか?」とは言わず(言うと間違いなく角が立つので)、
事務所内は若干微妙な空気感に包まれる、という感じだったのだが、
この映画を見ながら、その時の様子を思い出した僕は、
「ああ、結局、夫婦が一つ同じ屋根の下で暮らすということは、先日の掃除機みたいな事が積もり積もっていく、という事なんやろな」と、しみじみ思った次第である。
・・・書いていて、自分でも「何の話やねん?」という感じになったが(笑)、
まあとにかく、結婚に限らず、誰かと誰かが同じ空間にいると、良かれ悪しかれ「何かが起こる」し、
今作を見て痛感したのは、「誰かと誰かが争い出すと、その当事者だけでなく、まわりの近しい人も巻き込まれる」ということである。
夫婦の争いを経験したことのない(恐らく今後もなさそう)独身者の僕は、この映画を他人事のように見て楽しんでいた部分もあるが、
人によっては、この映画には笑うに笑えないシーンが沢山あったのかもしれない。