シンゴさんの、ふとしたつぶやき。

100点満点採点で映画を評価した記事と、あと他愛もない雑談と。

【ネタバレあり】「アイアンクロー」 相手を捉えたら離さない「鉄の爪」だが、幸福だけは中々掴めない・・・。

「アイアンクロー」を鑑賞。

100点満点で、73点。


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※今回もネタバレありです。未見の方はご注意ください。

 

プロレスにおいて、対戦相手の額を鷲掴みにして、相手をギブアップに追い込む必殺技「アイアンクロー(鉄の爪)」を武器に、アメリカや日本のリングで活躍した「フォン・エリックファミリー」の物語。

 

初代・鉄の爪ことフリッツ・フォン・エリックは、かつてジャイアント馬場アントニオ猪木とも死闘を繰り広げた、プロレス界に名を残す名選手である。

 

僕自身は世代的に、フリッツの全盛期の活躍を目にした事はないが、

フリッツの息子たちが次々と非業の死を遂げるという、いわゆる「呪われた一族」のエピソードは、

40代から上の世代で、一時期少しでもプロレスにハマったことのある人なら、知識の多寡に差はあれど、恐らく誰でも知っているのではなかろうか。

 

「全く詳しくはないが、エリック一家の悲劇はもちろん聞いたことがある」という程度の知識量の僕であるが、

今回、映画でその顛末を見てみると、全くもって身震いするというか、

「いや、俺も親父、お袋、祖母、従兄弟の病死を、たった2年間のうちに立て続けに見届けた経験があるけど、ちょっとこのエリック一家は・・・、エグいな・・・」という感想であった。

 

霊的な事柄をほとんど信じていない僕でも、「呪いとかって・・・あるのかな?」と思わせるレベルの不幸の連続。

 

「生き残った」という表現は不謹慎かもしれないが、

思わずそのような言い回しさえも使いたくなるような、

愛する兄弟達が次々とこの世を去っていく現実に対峙したエリック家の次男・ケビンの精神的苦痛たるや、

他者には計り知れないものがあったであろう(もちろん、兄弟達の両親や近しい人々も)。

 

映画としての作風は、演出や物語の展開において、特別に凝った装飾を施さず、エピソードの起こる時系列を順当になぞった王道的なものであり、

プロレスの試合シーンも、実際のプロレスの試合を見ているかのような臨場感と迫真性に満ちていて、

「プロレス映画」というジャンルで捉えた場合、かなりのハイクオリティであると思うし、俳優たちの、各プロレスラーのなりきり度もかなりのものであった。

 

フリッツ・フォン・エリック役の俳優さん(この人、他にも色々出ていたよな確か)もそうだし、エリック兄弟たちも再現度が高いし、

ハーリー・レイスやリック・フレアーなんて、「まんまやん(笑)」という感じで、そのあたりも、かつてのプロレスファンとしては、見ていて楽しいものがあった。

 

前半部で、ケビンがテレビ用のインタビューでうまく決めゼリフが言えず、何度もNGを連発するシーンや、

試合前に、対戦相手同士なのに、綿密に「試合進行の打ち合わせ」をするシーンなどは、かつてプロレスにハマっていた者としては、思わずニヤリとしてしまう。

 

あのような、プロレスのある種の「かわいらしい一面」をさらりと切り取って見せた監督の手腕にはセンスを感じるし、

極めつけは、ケリー・フォン・エリックの「バイク事故での右足切断」を見せる際の演出である。

 

ここについては詳しくは述べないが、

あれは、思わず戦慄を覚えるような強烈な見せ方であったと思うし、

「静寂」というものを、映像的インパクトを最大限に高める強力な武器として扱った、個人的に素晴らしいシーンだったと思う。

 

物語の終着点は、ただただ悲しみに明け暮れたものであり、鑑賞後における爽快感などは、ほぼ皆無ではあるが、

レスラーとしても、一人の人間としても、長らく順風満帆の道を歩めなかったケビンが、その後は子供や孫に恵まれ、2024年現在も健在であることに、人生の一筋の救いを感じた次第である。

 

残された鉄の爪は、悲しみと苦しみに揉まれながらも、幸せの種だけは鷲掴みにしたまま力強く生きていく。

エリックファミリーの今後の幸せを祈りたい。