8月28日、TOHOシネマズなんばにて、
「サバカン SABAKAN」を鑑賞。
2022年公開。
製作国は日本。
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舞台は1986年の長崎県。
担任教師も絶賛するほど、
文章を書くことが得意で、
クラスでの人気も高い久田(ひさだ)と、
1年中ランニングシャツで過ごすほど家が貧しく、
おまけにその性格の無愛想さもあって、
同級生たちからバカにされている竹本。
夏休みになったある日、
竹本は突然、久田の家を訪ねてきて、
地元の海にある「ブーメラン島」の近くに、
イルカが現れたので見に行こうと、
久田を誘う。
それまで、竹本とは友達と言える間柄ではなかった久田は、
竹本の突然の誘いに困惑するが、
竹本は「久田が道端に落ちていた100円玉を拾ったのに、警察に届けず、自分のものにした事」を目撃していた。
「ブーメラン島に一緒に行かないなら、
その事をまわりに言いふらす」
という竹本の「脅迫」に折れた久田は、
渋々、ブーメラン島に行く事を決意する・・・という、あらすじ。
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1986年といえば、
僕は9歳で小学3年生だったので、
主人公とほぼ同じ世代である。
主人公の久田と、久田の父親は、
アイドル時代の斉藤由貴の大ファン、
という設定だが、
もちろん僕もその頃の斉藤由貴を知っているし、
少年時代の久田と同じように、
キン肉マン消しゴム・・・いわゆる「キン消し」集めに没頭したものだ。
僕は大阪育ちなので、
舞台となる長崎県の海辺の町とは、
また違った文化的背景を経て成長したが、
当時の空気感や、日常使っている家庭用品といったものは、
大阪も長崎もどれも似通ったものがあり、
今作を見ていると、
自分の少年時代がフラッシュバックされて、
なんとも懐かしい気持ちになった。
物語は、
大人になり、小説家としての肩書きを持った久田が、
ゴーストライターという、
本人としては不本意な仕事を日々こなしながら、
新作小説を書く事に着手する、というオープニングで始まる。
物語の書き出しから詰まり、
なかなか筆が進まない久田であったが、
部屋にあった「サバの缶詰」に目が留まった瞬間、
かつて長崎時代に付き合いのあった、
竹本少年の事を思い出し、久田の回想が展開される。
劇中、僕が小学生時代に体験した色々な事を、思い出させてくれるような事が、
この作品でも描かれていて、
とても懐かしい気分にさせてくれたのだが、
この頃をリアルタイムで通過した世代としては、
もう少し、ノスタルジーに浸れるような要素を追加して欲しかった、
という欲求が湧き起こったのも正直なところ。
十分と言えば十分なのだが、
その他に、ビックリマンシールや、ドリフターズ、ひょうきん族などのお笑い番組、
当時のアニメキャラ、プロレスやプロ野球、
当時の少年達を夢中にさせた文化の振り返りなどが、
全部とは言わないが、あといくつかでもあれば、
1977年生まれで、
現在45歳の僕としては、
もっと楽しめるものであったと思う(これは僕のただのワガママなので、これらの要素がなくても、特に映画のマイナス評価には繋がらない)。
それにしても、この作品を見ていると、
「子供時代の思い出」というものは、
一生レベルで自分の心に影響を残すものだ、
という事実を、
あらためて思い知らされる。
大人になると、ほんの1年前にあった事や、
誰かとの会話の内容をすっかり忘れていたりするものなのに、
子供時代にあった事は、インパクトのある出来事はもちろんのこと、
「何気ない事」まで割と詳細に覚えていて、
ふと思い出しては、
ただただ懐かしい気分になったり、
他人に対して自分が放った言動について、
後悔の念に苛まれたりするものだ。
そして、おそらく誰にとっても、
少年少女の時代を振り返ると、
「大人になった今も、なんだか思い出すあの子」がいるだろう。
その関係が現時点の段階で、
良い思い出として生き続けているか、
あまり思い出したくないものとして、
心にこびりついているかはさておき、
そのような「いつまでも心に残る、あの人」はいるだろうと思う。
「離れ小島のイルカに会いに行く」という、
小学5年生にとっての大冒険は、
その目的が達成できたのかどうか、
その行動に意味はあるのか、
という問いかけが、あまり意味を成さない。
彼らは「イルカを見に行く」という純粋な衝動に駆られ、家を飛び出し、
その過程において、
彼らも意図していなかった、
一生ものの思い出と、絆を手に入れるのである。
この彼らの「計算や打算のなさ」の中にこそ、
僕たち大人が忘れた、
人生の本来の醍醐味や意義というものがあるのではないだろうか。
紆余曲折の旅を終え、
ひとまず、その日の別れを告げ合う2人の少年の、
「またね!」「うん、またね!」という、
繰り返しのやり取りに、
なぜだか涙が溢れてくる。
ネタバレになるので、
詳しくは書かないが、物語はこの後、
大きな局面を迎える。
ここからは、涙なくしては見れない。
人生とは、理不尽さと、それに伴う試練の連続であるが、
それでも人生は続く。
クライマックスの駅のホームでのシーンは、
人生で大きな悲しみに見舞われた時、
友人の存在は、あまりにも重要である、
という事を思い知らされる。
このシーンは、うがった見方をすれば、
「ベタな見せ方のシーン」かもしれないが、
やはりここは号泣してしまった。
この作品に対する、
僕の評価は100点満点で、92点。
お母ちゃん、親父ぶりがとても良かったし(この2人のやり取りがけっこう笑える)、
久田、竹本を演じる子役たちも良かった(特に久田を演じる子は、これが映画デビューらしいが、素晴らしい演技を見せてくれる)。
ただ、不満点というわけではないが、
エンドクレジット後の、
久田と竹本の釣りのシーンは余計だったかな?
無くてもよかったかな、と少し思う。
あと、大人になった久田を演じる草彅剛と、
長崎時代の久田少年の顔が似てなさすぎて、
これには「うーん」となった(まあ、この辺りは、ある程度仕方がない事かもしれない)。
・・・と、ちょっとした引っかかりがありつつも、
全体的には素晴らしく、
久しぶりに「良い映画」を見た気分である。
宣伝が大々的にされている感じではないので、
一部の映画ファン以外には注目されていないかもしれないが、
とても爽やかな気分にさせてくれる作品だ。
出来るだけ多くの人に見てもらいたい。
という事で、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。