シンゴさんの、ふとしたつぶやき。

100点満点採点で映画を評価した記事と、あと他愛もない雑談と。

「生きててよかった」(詳細すぎるネタバレはなし) ボクシングをしていないと「死んでしまう」男が見つけた、安住の地下世界。

 

5月18日、なんばパークスシネマにて、

「生きててよかった」を鑑賞。

 

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2022年の日本映画。

 

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ベテランプロボクサーの楠木創太は、

相手に真正面から立ち向かうファイトスタイルを売りにして、

長年リングに上がり続けたが、

遂にドクターストップがかかり、引退を迫られる。

 

「俺はまだできる」と、

リングへの思いをたぎらせる創太であったが、

トレーナーや、恋人の幸子たちに説得されて、

やむなく引退することを決意。

 

創太は、それを機に幸子と結婚することにし、

一般企業へ就職する事となった。

 

しかし、ボクシング一筋で、

社会人経験が乏しい創太は、なかなか仕事をうまくこなせない。

 

次第に自暴自棄になり、仕事も辞め、

鬱屈した無職生活を送り始める創太。

 

そんなある日、不穏な存在感を醸し出す一人の男が、創太に声をかけてきた。

 

創太の現役時代を知るその男は、

創太に「闘える場所がある」と言い残して、

名刺のようなものを創太に渡し、立ち去った。

 

後日、

創太は、その場所を訪れるが、

そこは「グローブもはめず、目潰し、急所攻撃など何でもあり」の、

ルール無用の喧嘩ファイトが繰り広げられる

「地下格闘技場」であった。

 

もう一度、自分が「生きている」と実感できる日々を取り戻すため、

創太は、この危険極まりない闘いの場に、

己の体を放り込むのであった・・・・という、あらすじ。

 

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主演を務めるのは、

実際にプロボクサーであった経歴を持つ木幡竜。

 

実際にリングで闘っていた経験を持つ彼が演じるファイトシーンは、

彼の鍛え抜かれた肉体も相まって、

かなりのリアルさと迫力を伴うものである。

 

ボクシングが好きで好きでたまらなくて、

それ以外の仕事には何の熱意も持てない創太のような人間の気持ちは、

若い頃、プロのミュージシャンに憧れたりしたが、

能力を伸ばせず夢破れた僕のような人間には、

大いに理解できるものがあるし、

ある種の共感も覚える。

 

僕の場合、幸か不幸か、

普通の仕事も「普通にこなせてしまう自分」がいるので、

創太のような極端な人生にはなっていないのだが、

「得意なこと以外はどうしようもない、ダメ人間」に、

どこか少し憧れている自分もいる。

 

劇中、創太の幼なじみで、売れない役者として生きる健児が、

「(俺は)変に才能があるから、(役者を)辞めれないんだよ。

才能がなかったら、とっくに辞めれてるんだよ」といった内容のセリフを吐くシーンがある。

 

創太も健児も、タレントや音楽家、スポーツ選手をはじめとする、

「人の注目を浴びる仕事」が備え持つ

「魔性の魅力」に取り憑かれており、

二人して、輝きたくても輝けない、

くすぶり続けるだけの生活を送っているのだ。

 

もしかすると創太自身は、

ただ「ボクシングが好きなだけ」で、

人の応援や歓声を浴びる事などは、

彼にとっては、副次的なものであるのかもしれない。

 

その本当のところはわからないが、

間違いなく、彼は「重度に取り憑かれている」のである。

 

このような人間が、この社会を生き抜くのはかなり苦しいだろう。

 

そんな創太を見守り続け、

支えてきた妻の幸子は、創太のことを理解しようと努めるが、

創太が現役のボクサーであった頃から、

彼の試合を一切見ることができない。

 

自分の大切な人が、一歩間違えれば死ぬかもしれない、

と言えるようなことをしている、と考えると、

彼女は精神的におかしくなってしまいそうになるのだ。

 

そこで彼女は、自分を正気に保つため、

彼女なりの「ある行動」を取る。

 

このあたりはネタバレにならないよう、伏せておくとして、

この幸子の「秘密の行動」に関連性がある、

一連のシーンについての僕の感想としては、

正直なところ、そこまで露骨に描く必要があるのかな?と、

若干の違和感を感じたし、

さらに、ストーリーの中間あたりで創太が見る「ある夢」に関しては、

僕は完全に「不要」だと思った。

 

夢のシーンと、

あと、創太の所有する自転車が絡んでくるシーンは、この映画の中でも、

はっきり言って「浮いている」と感じた、

コメディ的な要素をはらんだシーンなのだが、

あれらのシーンはどちらも、

あのような描き方以外の、何か別の演出であった方が良かったような気がする。

 

監督の遊び心が出たのかもしれないが、

僕には「笑いをねじ込もうとしている感」が感じられて、

少々、興醒めした部分である。

 

「幸子の秘密」に関わる人物の登場の仕方も、

幸子という人間が持つパーソナリティに対して、

落差がありすぎる、というか、

間が抜けすぎ、というか、

「いやいや、普通、そんな簡単に秘密をバラさんし、こんなヤツ、いくらなんでも幸子は最初から相手にしないだろ」という、

苦笑が漏れるような描き方をしているし、

このあたりは、

個人的に残念に感じた。

 

その他にも、少し「うーん、ちょっとやりすぎでしょ・・・」と感じるシーンがあって、

それらが、自分としては、ちょっとずつマイナスのポイントになっているのだが、

ラストの格闘シーンは良い。

 

いや、かなり良かった、と言える。

 

これもネタバレ防止のため、詳しくは書かないが、

創太は、地下格闘イベントを取り仕切る男(創太を地下格闘技に誘った男)から、

試合前日に、ある「頼まれごと」をされるのだ。

 

その「約束」を、創太がもし破れば、

創太は即日クビになり、今後、格闘イベントに参加する事は許されなくなる。

 

そして迎えた翌日の試合。

 

創太は、いつものように懸命に闘う。

今までとは違う「特別な状況と条件下」の中で。

 

試合が白熱する中、

創太が最終的に選んだ「闘い方」に、

会場は興奮の坩堝(るつぼ)と化す。

 

創太の歩んできた今までの人生の全てが詰まった、

「楠木創太という人間の集大成」が発現する。

 

注目は、その闘いが終わった瞬間の、

創太に「約束を突きつけた冷徹な男」が見せた表情。

 

あの男の、あの最後の表情こそが、

僕にとって、この映画の最大最高のインパクトであった。

 

このクライマックスで、この映画に対する評価点がかなり上がった。

 

ボクシングをすることでしか、

生きている実感を抱くことができなかった不器用な男、

楠木創太という「名もなき星」が、

暗黒の地下空間の、リングと呼ぶにはあまりにお粗末な「宇宙」の中で、

最後の最後に、目が眩むほどの輝きを放った瞬間である。

 

僕の評価は、100点満点で、85点。

 

この、ある意味、悲しいほど不器用な男の生き方に共感できるか、

そして、「違法」な場所で命を削るような行為をしている人間を支持できるのか、

という部分において、

賛否が分かれる作品であるかもしれないが、

僕自身は、一人の男として、

彼の輝きを間違いなく感じることができた。

 

その是非については、今回は脇に置いておこう。

 

という事で、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。