今回の記事は、ネタバレを含んでいます。
作品未見の方は注意してください。
この作品の内容は、
すでに国内外でニュースとして扱われた事もあり、
なおかつドキュメンタリーなので、
「ネタバレ云々」という表現を使うのも、
自分の中で「どうなのかな?」という思いがあるのですが、
ひとまず核心部の内容には触れているので、
その点をご理解の上、お読みください。
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6月20日、なんばパークスシネマにて
「ナワリヌイ」を鑑賞。
ロシアの弁護士であり、政治活動家である
アレクセイ・ナワリヌイ氏を追うドキュメンタリー映画。
2009年頃から、
反メドべージェフ、反プーチンの先鋒として、
一部の熱狂的な民衆の支持を受け、
精力的に活動を行なってきたナワリヌイ氏だが、
彼は2020年8月、飛行機で移動中、
急激な体調不良に陥る。
飛行機は緊急着陸し、
昏睡状態となったナワリヌイ氏は、病院に緊急搬送されるのだが、
この時、彼は、何者かが仕込んだ毒物によって殺されようとしていた、
という衝撃の事実が浮かび上がる。
ナワリヌイ氏はその後、
ロシアからドイツの病院に移送され、
奇跡的に一命を取り留めるのだが、
(これは僕の推測だが、ロシアの病院にいたままなら、彼はおそらく死んでいただろう・・・というより「殺されていた」だろう)
そこからの一部始終を、
カナダ人ドキュメンタリー映画監督、
ダニエル・ロアーのカメラが克明に記録しており、
まさにその内容は「衝撃的」である。
ナワリヌイ氏の毒殺未遂に関わった人物たちを、
ナワリヌイ氏を支援するイギリスの調査団体が、
ネットワーク技術を駆使して特定し、
そして実行犯と思われる本人達に、
ナワリヌイ氏が直接電話して、
その動機と真意を探っていくシーンが登場するのだが、
これが凄い。
この一連のシーンについては、
「ウラジーミル・プーチンという人物が、少なく見積もっても、間接的に関与したと思われる殺人(未遂)罪」の証拠を、
カメラが捉えた「歴史的瞬間」である、
と言ってもいいくらいだと思う。
その後、このやりとりの一部始終が動画サイトに投稿され、
短期間で爆発的な視聴回数の伸びを記録するのだが、
それに対してプーチン大統領は、
「CIAの手先が、(我々を貶めるために)やったことに違いない」と、
さらりと、そして、あっさりと完全否定するのである。
僕は、
このプーチンの、鼻にもかけない否定ぶりに、
一瞬、唖然としてしまったが、
同時に「まあ、認めるわけないわな」と、
妙に納得もしてしまった。
何せ、1999年、
政権内の汚職をうやむやにし、
そして自身の名声と支持を高めるために、
彼がまだ首相だった時代に起こった「高層アパート爆破テロ事件」を、
それがロシア連邦政府の自作自演にも関わらず(諸説あるが、僕はこの「自作自演説」を支持している。この件に関しては、真相を追求しようとした者が何人も不審な死を遂げている)、
チェチェンへの侵攻を指示した男である(この件における国民からの支持の高まりをきっかけに、プーチンは大統領へと上り詰める)。
なので、
「この程度(ナワリヌイ氏側から見たら、『この程度』という表現は大変に失礼だが、プーチン視点で捉えた場合、という意味で『この程度』という表現を使わせてもらう)」
のことを、
プーチンのような独裁者が認めるわけがないのは、火を見るより明らかだろう。
さすが、KGB出身であり、
そのキャリアの過程で、多くの者を闇に葬ってきた人間は、肝の座り方が違う。
この映画を見ていると、
ロシアという国が、いかに「表向きは巧妙に民主主義を装った独裁国家」なのかが、よくわかる。
ドイツでの治療を終え回復したナワリヌイ氏は、
2021年1月17日に、
帰れば逮捕されることが、ほぼ確実であるにも関わらず、
母国ロシアに帰国する。
そのナワリヌイ氏帰国当日の空港に集まった、
ナワリヌイ氏を支持する民衆に対する警察の振る舞いには、
心底、恐怖とやるせなさを感じた。
案の定、ナワリヌイ氏は逮捕され、
現在も、特別監視体制の敷かれた刑務所に収監されている。
刑期は、最大で20年に及ぶ可能性があるとのこと。
この作品に対する僕の評価は、
100点満点で、90点。
この90点という点数は、
この作品で紹介された、
一連のセンセーショナルなエピソードそのものに対する得点ではなく、
「撮影されたエピソードを編集した末に構築された映像作品」
としての完成度に対する得点評価である事を、
強調しておきたい。
インタビューで、ナワリヌイ氏が放った
「決して諦めてはいけない」という言葉と、
「悪人が勝つのは、善なる人が何もしないからだ」という言葉が、
とても胸に刺さった。
・・・のだが、僕はこの作品を見た現時点で、
ナワリヌイ氏の事を「ロシアに現れた救世主」とは思っていない。
というのも、
映画の中で「あー、それはちょっと、どうなのかなあ・・・」と、
ナワリヌイ氏の方針について、
不安に思ってしまう箇所があったからだ。
この箇所については、
あえて、ここでは説明しないでおく。
気になる方、興味を持たれた方は、
ご自分の目で、この作品を見ていただいて、
ご自身の見解に身を委ねていただければ、と思う。
という事で、
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。