シンゴさんの、ふとしたつぶやき。

100点満点採点で映画を評価した記事と、あと他愛もない雑談と。

(核心部のネタバレはなし)「ラスト・ムービースター」 富と名声は、振り返れば幻のようなもの。しかし過去のあやまちは、いつまでも現実の自分にのしかかる。

 

昨日は自宅で「ラスト・ムービースター」を鑑賞。

 

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2017年のアメリカ映画。

 

かつてハリウッドで、稀代のスターとして名を馳せた俳優、ヴィック・エドワーズ。

 

年老いた彼は、

愛犬と共に孤独な生活を送っていたが、

その愛犬も寿命と病気が相まって亡くなり、

ヴィックは完全なる独居老人となる。

 

そんな時、ヴィックはある映画祭から招待を受けることになる。

 

テネシー州ナッシュビルという、

カントリーミュージックで有名なこの都市で開かれる映画祭の「特別功労賞」受賞者として、

ヴィックが選ばれたのだ。

 

かつて、クリント・イーストウッドロバート・デ・ニーロなども受賞したという、

この映画祭の特別功労賞。

 

招待されたヴィック自身は「聞いたこともない映画祭だ」と、

その映画祭自体の存在を訝しみ、

招待状をゴミ箱に捨てていたが、

友人の勧めもあってしぶしぶ出席することに。

 

飛行機での旅を終え、空港で待っていたのは、

映画祭の名に見合った「送迎のリムジン」ではなく、

その見かけと言動に、品の良さのかけらも感じられない若い女性が運転する、

「薄汚れた一般乗用車」だった。

 

宿泊先は一流ホテルではなくモーテル、

映画祭の会場は、地元のこじんまりとしたバー。

 

「映画祭」とは名ばかりの、

「マニアックな愛好家の集い」のようなイベントに参加させられたヴィックの行動は・・・

という、あらすじ。

 

主演のヴィック・エドワーズを演じるのは、

バート・レイノルズ

 

(↓若かりし頃のレイノルズ)

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このバート・レイノルズの名前を見て、

郷愁の思いに駆られるとしたら、

これを読んでいるあなたは、おそらく50代前後以上の年齢の方だろう。

 

僕は現在45歳で、

バート・レイノルズの出演作品で見たものは、「キャノンボール」と「キャノンボール2」くらいだが、

とにかくバート・レイノルズという俳優の圧倒的存在感、

まるで「男性ホルモンそのものが擬人化」したような、

これぞ「男の中の男」と言っても過言ではない、

見た目からほとばしる雰囲気の「圧倒的濃さ」が、

当時子供だった僕の目に、非常に印象的に焼き付いている。

 

レイノルズは、1970年代には、

アメリカではまさにスターダムと言える人気と地位を確立したようだ。

 

1978年には、レイノルズの主演が4作同時に公開される、

ということもあったほどの人気ぶりだったらしい。

 

しかし人気の絶頂を極めて以降は、次第に仕事が減少。

 

時代を経るにつれて「過去の人」という認識が、世間に定着してしまったレイノルズ。

 

そんなバート・レイノルズが、

80歳を目前に挑んだ本作は、

まさに「レイノルズ自身の人生の回顧録」と言えるようなストーリー。

 

映画の中でヴィックによって語られる

「ヴィック・エドワーズの人生」は、

ヴィックを演じる「バート・レイノルズ」の人生の振り返りであり、

老いたヴィックが語る、

自身の人生における過ちに対しての後悔、懺悔の言葉の数々は、

僕にはもはや、台本に書かれた単なる台詞というもの以上に、

バート・レイノルズの魂の告白」といえる、

迫真性を伴った、リアルなメッセージとして胸に迫ってくるものがあった。

 

ナッシュビルで開催された「手作り映画祭」への参加は、

かつての人気者がたどり着いた「成れの果て」を象徴するかのようであり、

「こんなインチキ映画祭に来るんじゃなかった」と、

暖かく迎えてくれたファンたちに、

不遜な態度で接するエドワーズであったが、

その後、自身の内面を掘り起こさせる「旅」に出ることによって、

自身が犯した「最大の過ち」に決着をつけようとする。

 

この映画を見ていると、

まさに「後悔先に立たず」という言葉が思い浮かんで、

鑑賞している僕自身も、

今までの人生で、何人かの人に対して犯した自分の過去の言動などを思い出して、

身につまされる思いがした。

 

若い頃の、

思慮に欠けた身勝手な思考や行動、言葉は、

多かれ少なかれ、

後々に自分を苦しめる結果をもたらすものであると思うが、

ある時点でその苦しみを真正面から受け止めて、

自分の非を認めた時に、人は再び他者との調和の道を歩めるかもしれないことを、

この映画は教えてくれる。

 

ストーリーの展開は、

全体的にゆったりとしていて、

何か重大なアクシデントを匂わす局面がありつつも、

結果的に大ごとに至らなかったりするシーンがいくつかある。

 

それらのシーンの流れのせいで、

一瞬高まった緊張が昇華されることなく、

エピソードが尻すぼみに弛緩していく感じが、

僕にはもどかしく感じたし、

そのあたりがこの映画の評価の分かれどころになるかもしれない。

 

バート・レイノルズという俳優を少しでも知っているという人と、

全く知らないという人の間でも、

評価は分かれそうだ。

 

「人生の振り返り」というテーマを扱った物語、という観点からも、

中年以降の人と若年層の人では、

受け取る印象がかなり違ってくると思うので、

世代別で大きく評価が分かれるかもしれない。

 

僕の評価としては、100点満点中、78点。

 

良い作品とは思うが、

ある意味、マニアックな映画と言えるし、

さほど長くない上映時間(1時間40分強)でありながら、

多少の中だるみは感じたので、このあたりの点数かな、と。

 

ただ、最後にエンドロールで流れる歌が格別である。

あれは泣ける。

 

それにしてもバート・レイノルズは、

かつて「007シリーズ」のジェームズ・ボンド役や、

スターウォーズ」のハン・ソロ役のオファーを受けたにも関わらず、

断ったという話があって、

今となれば、なんともったいない事をしているなあ、と思う。

 

まあ、もし彼がその話を受けていたら、

その後の人生はスター街道まっしぐらだったのか?と言ったら、

そうとも思えないのだが。

 

そのせいで、イケイケドンドンで調子に乗って、

破天荒な生活にさらに突き進み、

結局、凋落した可能性は高いだろう。

 

レイノルズは、この映画の公開後も、

クエンティン・タランティーノ監督の作品への出演が決まっていたが、

その撮影に参加することなく、

2018年に享年82歳で逝去。

 

奇しくも、このレイノルズの人生の集大成のような作風の「ラスト・ムービースター」が遺作となった。

 

あらためまして、御冥福をお祈りします。

 

という事で、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。