昨日は、自宅で「ピザ!」を鑑賞。
2014年のインド映画。
ざっくり言うと、
南インドのスラムに住む貧しい子供の兄弟が、ピザを食べたいがために、たくましく働きまくる話なのだが、
後半は、大人の世界を色々と皮肉った感じの、風刺的な色合いを見せる作品。
インド映画と言えば、
「唐突に歌い、踊りだす」というイメージで有名だが、この映画にそういった要素はない。
この兄弟、まわりの人たちから、
兄の方は「大きなカラスの卵」、
弟の方は「小さなカラスの卵」という愛称で呼ばれている。
その由来は、いつも町の子たちが遊び場として使っている空き地に生えている一本の木に、
カラスが巣を作っていて、
兄弟は日頃の空腹を満たすために、
その巣に産み落とされたカラスの卵を取って食べていたからである。
兄弟の父親は、何かしらの事件を起こし(結局、何をしたのかはよく説明されていなかった気がする)、
警察に拘束されている身。
母親は工場で働いているが、
その稼ぎから夫を釈放するための弁護士費用を捻出しているので、一家の家計は苦しい。
なので母親は、兄弟を学校に行かせず、やむなく働かせている状態。
石炭を運ぶ貨物列車の荷台からこぼれ落ちた石炭のかけらを売るのが、
兄弟の収入源である。
ある日、子供の遊び場である空き地が買収され、ピザ店がオープンする。
店のオープニングセレモニーには、
インドの大スター、シンブが登場し(本人が出演。僕はインドの芸能界に詳しくないので「へえ、そういう人がいるのか」という感じ)、
店内でピザを食べるのだが、
その姿を見て、兄弟2人とも
「あの、ピザというものを食べてみたい」
と、頭の中がピザでいっぱいになってしまう。
しかし、ピザの値段は300ルピーで、兄弟の1日の稼ぎは15ルピーほど。
兄弟にとってピザは、
欲しくてもすぐには手の届かない高嶺の花であったが、
一生懸命働き、なんだかんだで300ルピーのお金を用意する。
300ルピーを握りしめ、
「いざ!ピザ屋へ!」と赴く兄弟であったが、そこで待っていたものは・・・・
というのが、物語の概要。
日本在住の日本人である僕として、
テレビのニュースやドキュメンタリー、
あるいは映画(すぐに思い浮かぶものと言えば「スラムドッグ$ミリオネア」)
などで何度か見ているにも関わらず、
やはり色々な意味でショックを受けるのが、
インドの貧困地域の環境の劣悪さと、人々の暮らしぶりである。
何を隠そう、僕も幼少期から、
そこそこの年になるまで、見た感じで即貧乏認定されるような家屋に住んでいた過去があるが、
やはりインドのスラムと呼ばれる地域は、その比じゃない。
「すごい環境だなあ・・・」
という感想しかないのだが、
この映画を見ている限り、そこに暮らす子供たちのたくましさには、目を見張るものがある。
子供たちは、明らかに軽犯罪と言えるようなこともして、日々を生き抜いているのだが、
誤解を恐れずに言えば、そこに陰湿な動機は感じられず、
ただただ「日々、生きること」と、
「物を持つ生活への憧れ」に意識を集中している感じだ。
これはあくまで映画作品なので、
この作品の中の描写を見てすぐに
「これがインドなのか」と、わかったような気になってはいけないと思うが、
色々と勉強になるものがあった。
劇中、この物語の最も重要な部分(ネタバレになるので伏せる)について、
テレビのコメンテーターたちが激論を交わしているシーンがあるのだが、
日本のワイドショー的な報道番組でもよく見る光景とけっこう似ていて、
「インドのテレビもこんな感じなのね。あんまりウチと変わらんね」
と妙に親近感を覚えた。
物語は、この「重要な出来事」をきっかけに、
ピザ店が世間の大注目を浴びる事態になっていくのだが、
さもすれば、シリアスで、重苦しい雰囲気で描けそうな大人達の政治的駆け引きを、
あまりそう感じさせないコメディ的な質感も交えたタッチで描いている。
最後のオチに至っては、
大人の欺瞞をあざ笑うかのような子供の正直さに、
絶妙の風刺画を見ているような感覚になって、これには僕も思わず笑ってしまった。
あと印象に残った部分としては、
スラム街を背景にカメラ前で話すテレビリポーターの前を、兄弟が横切りそうになり、
それをカメラ横にいたディレクター的な人が「シッシ!」と手を払うジェスチャーで、
兄弟に向かって「カメラの後ろ側をいけ!」というメッセージを送ったところ。
リポーターが話している内容は、
「私たちは、このスラムの現状を見て見ぬふりをして良いのでしょうか?」的な感じだったのだが(セリフは字幕ママではない)、
そんな「社会正義的」な綺麗ごとをカメラに向かって訴えている割には、
実際にスラムに住んでいる、
みすぼらしい服装をした子供たちが近づくと、
犬を追い払うかのように「近づくな」というジェスチャーをするテレビスタッフ。
ここはかなり風刺的な意図を感じ取れるワンシーンであった。
あと、少しびっくりしたのが、
あらすじのところでも述べた、
ピザ屋がオープンして大スターのシンブが登場するシーンで、
熱狂する野次馬の中に、
腕に見た目からしてすぐわかる障害をもっている少年が映し出されていた事。
文章で表現するのが難しいのだが、
その子の片腕が通常ではない形をしていて、
それを包み隠さず群衆の中の目立つところに配置するのは、
少なくとも日本の映画やドラマではないんじゃないだろうか?(いや、わからないけど。ただの個人的な想像)
インドという国は、あくまで僕の想像の範囲だが、
医療的にも他国と比べて充実していない側面があるように思えて、
それが全て、直接の原因ではないかもしれないが、
先天的、後天的の両面で、障害を抱えている人の割合が多いような気がする(この点に関して、まだまだ僕は勉強不足なので、的確な知見をお持ちの方がいらしたら、どうぞご指摘いただければ幸いです)。
この映画は「インドのリアル」を映し出すことに重点を置いているはずなので、
あえて障害を持った子供を、目立つ位置に置いたのかもしれない。
というあたりで「ピザ!」の解説とレビューを締めくくりたいと思うのだが、
僕の点数評価としては、
100店満点で、80点。
子供が過酷な労働をして、やっとピザ一枚食べられる現実があるなんて、
この世の中、やはりどこか狂っている。
という事で、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
(リンクを貼ったものの、現在Amazonプライム・ビデオでは同作品の配信はいったん終了しているようです。またしばらくしたら、配信が再開されるかもしれません)