6月23日、なんばパークスシネマにて
「PLAN 75」を鑑賞。
2022年の日本・フランス・フィリピン・カタールの合作映画。
超少子高齢化の進んだ日本は、
高齢者問題の解決策として、
「PLAN 75」という制度を導入。
この世界初の制度は、
「満75歳に至った者は、自らの意思で死ぬ事を選ぶ権利が与えられる」
というものだ。
78歳にして職場を離れることになり、
住んでいた部屋からも退去しなければならなくなった一人の女性が、
この制度の利用を考え始め、
ついには申し込みの決断をする過程を描いた、
この作品。
僕が見に行った日は平日であったが、
劇場に到着すると、
110席の座席がどんどん埋まり、
見渡せば、ほぼ満員の状態。
そのほとんどが、お年寄りと言える年齢の方ばかりであり、
僕と同じ40代くらいか、
それより下と思われる人は、
僕の目で確認した限り、
皆無であったように思う(いたのかもしれないが、僕以外、全員お年寄りに感じるほどの、圧倒的高齢率であった)。
やはり皆さん、扱っているテーマが自分にとって絵空事に思えず、
なにやら心にざわめくものを感じ、
これが一体どのような映画なのか、
気になってしまったのであろうか?
長年、映画を見てきたが、
こんなにもお年寄りの皆さんに囲まれて映画鑑賞したのは、人生で初めてである。
ま、そんなことはさておき、
映画の感想だが、
途中までは悪くなかったのだが、
後半からラストにかけて、大きな盛り上がりがなく、
言いたい事は何となくわかるんだけど、
個人的に「とても弱い」と感じるオチで、
しれっと終わった、という印象だ。
仕事をなくし、新しい部屋を探し始めるも、
不動産屋には「紹介できそうな物件がない」と言われ、
スーパーの仕事を見つけるも、そこも雇ってくれず、
次第に「社会からそっぽを向かれた」と言える状態に追い込まれる主人公の女性、
角谷ミチ(倍賞千恵子)。
何とか交通誘導員の職にありつけたが、
冬の夜の寒空の下、
彼女が孤独に誘導棒を振る姿は、
そこはかとなく悲哀に満ち溢れている。
職場で仲良くしていた友人の一人は、
自分の住む家で孤独死し、
その他のかつての交友関係も、すっかり薄くなってしまった。
という事で、
ミチは「自らこの世を去る」という決断をするに至るのである。
この作品における個人的クライマックスは、
ミチが「死のう」という決断をした後、
ミチの精神的ケアを担当するカウンセラーのような女性と、ミチが打ち解け、
死ぬ前の最後の電話相談をする場面。
この後は、先ほども書いたように、
「弱い。これは実に弱い」という感想を抱いたオチに辿り着くのだが、
ミチとカウンセラーの最後の電話のシーンについては、
これは、かなりグッと来るものがあった。
仕事とはいえ、
カウンセラーも一人の人間である。
短い間であっても、心が通じ合った人間が、
まもなくこの世からいなくなる事に、
冷静かつ事務的な対応を貫き通すのは、
無理があるだろう。
このシーンにおける、
カウンセラーを演じる河合優実の
「本当は、ミチとの別れがつらくて仕方がないのだけれど、仕事だから、努めて冷静に振る舞おうとしている」演技が、とても良かった。
(チラシ右上の、この人が河合優実↓)
彼女は、先日取り上げた「ちょっと思い出しただけ」にも出演していたが、
その時の演技も、
「この人、かなり良いな」と思えるものを見せてくれている。
彼女は今後、さらなる飛躍を期待できる逸材だと思うので、
注目しておきたい。
(「ちょっと思い出しただけ」のレビューはこちら↓)
https://shingosan.hateblo.jp/entry/2022/06/17/004303
さて、この「PLAN 75」という架空の制度についての僕の見解だが、
結論からいうと、
75歳であろうが、何歳であろうが、
年齢云々関係なく、
「自分の意思で、安楽死を選ぶことができる」という制度は、
日本でも合法化されていいと、
僕は思っている。
「合法化した方がいい」や、
「すべき」とまでは、思っていない。
選択肢の一つとして、あってもいいのではないか?
とは思っている。
そう思えるのは、自分の個人的体験からなのだが、
これについては、今回は特に言及しないでおこう。
しかし、まあ実際に、
日本という「何かと手続きに時間がかかる」国で、
このような制度を導入しようとしたら、
申し込みの申請、承認自体に、
決して短くない時間がかかったり、
家族及び、親類の承諾を得る過程での
感情的交錯など、色々と大変な事が発生するだろう。
当事者が、たとえ軽くても認知障害の疑いがあれば、
その認知能力の程度を検査し、
それを評価及び認定するだけでも、
煩雑な行政手続き等が発生するだろうから、
なかなか「わかりました。それでは○○日に死にましょうか」と、
すんなりとはいかないだろう。
「安楽死制度」の合法化は、
この映画で描かれているほど、
単純ではない問題だ。
この作品に対する僕の評価は、
100点満点で、50点。
メインで取り上げられる2人の老人が、
共に独居老人だったのだが、
僕としては、
片方は「家族の存在が身近にあるケースとして、この問題にどう向き合うか」
というパターンも見たかった。
あと、外国人労働者の女性が登場するのだが、
彼女に関連する一連のエピソードの描き方も、
中途半端というか、
ドラマとして盛り上がりに欠けるものがあった。
そして、磯村勇斗演じる役所の職員が、
「PLAN 75」制度に関わる「ある会社」についての内情を知ってからの展開も、
これまた今ひとつ盛り上がりに欠ける。
作品の着想自体は興味深いが、
とにかく中途半端な印象を残したままで終わる、
地味すぎた一本であった。
という事で、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。