シンゴさんの、ふとしたつぶやき。

100点満点採点で映画を評価した記事と、あと他愛もない雑談と。

(核心部のネタバレはなし)「薬の神じゃない!」 本当の正義とは何なのか?

 

昨日は、自宅で「薬の神じゃない!」を鑑賞。

 

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2018年の中国映画。

日本では2020年に公開された。

 

中国で実際に起きた事件を元にした物語。

 

男性向け強壮剤の販売を生業にしていた

チョン・ヨンは、商売が上手くいかず、

自分が経営する店の賃料も払えないほど金に困っており、

妻とも離婚調停中で、

まさにどん底と言える生活のただ中にいた。

 

そんなある日、

リュ・ショウイーという男が、チョンの家に訪ねてくる。

 

リュは慢性骨髄性白血病を患っており、

「(白血病の)薬をインドから輸入してほしい」と、チョンに依頼する。

 

チョンは「国が認可していない薬を輸入などできない。バレて捕まれば重罪になる」と、

その依頼をいったんは断るのだが、

そんな折、チョンの父親が倒れ、

その治療費のために、チョンは経済的に窮地に追い込まれる。

 

チョンは、

「この薬を安く仕入れて、中国の患者に売れば儲かる」

と言ったリュの事を思い出し、

金欲しさにやむなくリュに連絡を入れ、

薬を仕入れるため、一人インドに向かう・・・・

というのが、大まかなあらすじ。

 

この映画のテーマとなる「白血病の薬」なのだが、

「グリニック」という名の薬で、

この話の当時(2002年頃)は、

中国が認可していたスイス製のものが非常に高価であるため、

多くの一般庶民患者が、薬代によって生活が圧迫されている、という状況だった。

 

それに対して、インド製のジェネリック薬は、スイス製のものより約1/20の価格で販売されていた。

 

中国政府はこの「インド製グリニック」を

「ニセ薬」として正式に認可していなかったので、

チョンがインドに薬を買い付けに行った行為は「密輸」になる。

 

チョンは結局、渋々手を出したこの「闇商売」のおかげで荒稼ぎしていくのだが、

物語は次第に、現代医療の問題点を浮き彫りにし、

我々に「正義とは何なのか?」という問いを投げかける展開へと転じていく。

 

金を稼ぐことに取り憑かれたようになっていたチョンが、

ある時点から病気で苦しんでいる者のために身銭を切って働く姿は、

人間として最も理想とされる「美徳」を体現している、と言えるかもしれないのだが、

彼は政府や警察の目から見れば、

密輸を営む、れっきとした「犯罪者」なのである。

 

チョンとその仲間が行っていた事は、

「法律を遵守するのが、社会に生きる人間としての正しい生き方」であると定義するなら、

たしかに「やってはいけない事」なのだ。

 

しかし、この行為は「人として」決してやってはいけない事だったのだろうか?

 

この作品は、そのような問いを、見る者に突きつけてくる。

 

この正義と悪の境界線が曖昧になるようなテーマに対しては、

様々な意見、賛否両論があると思うが、

はっきりとした事実はある。

 

それは、安価な薬のおかげで生き長らえた人々が現実にいる、という事実だ。

 

僕はこの事実を引き合いに出して、

ジェネリック薬」をどんどん活用、推進したらいい、という方針を語るつもりはないし、

そもそも、そんな事は思ってもいない。

 

おそらく、ジェネリック薬にも、業界的には世間に秘匿しておきたい「裏側」があるだろうし、

元を正せば、チョンが密輸入したインド製グリニックも、

仕入れたチョン自身が「薬としての有効性や、副作用の危険性」など、よく分からないままなのだから、

手放しでチョンを「正義の味方」として持ち上げられない側面もある。

 

そういった事を踏まえると、

この映画は、スイス製の高価な薬が「悪」で、

インド製のジェネリック薬が「正義」などという単純な二元論の話ではない、

と僕は解釈する(といっても、スイスの製薬会社の上層部の姿勢と考え方は「悪」だと、僕は思ったけど)。

 

それにしても、医療行為と、それにかかる費用の問題というのは、

人間社会における最も難しい問題の一つではないかと思う。

 

例えば、自分の子供の重い内臓疾患に対する、

恐ろしく高価な手術費用をかき集めるため、

街頭で募金を呼びかける親御さんやボランティアの人々の姿を、

この記事を読んでくださっている皆さんも、

一度はテレビや、実際の現場で見たことはあると思うのだが、

 

ああいった光景を見るたびに、

「一般庶民が何年働いても稼げないような金額を出さないと手術できないって、

世の中の仕組みっておかしくないか?」

と、僕は考えてしまう。

 

薬の話もこれと一緒で、

難病のための薬を開発するのは莫大なお金がかかるだろうから、

そのために薬の販売額が高額になるのも、

理屈としてはわかるんだけれど、

必要としている人がそれが買えなくて死んでいく・・・、それって本末転倒のような気がするのだが?

 

映画の点数は、

100点満点で、92点。

社会的ドラマとしても、ヒューマンドラマとしても見応えのある素晴らしい作品だった。

 

見終わって、スッキリしたり、さわやかな気分にはならない映画だが、

「人を救うことに目覚めた」一人の男の覚悟に、深い感銘を受けた。

 

難癖を一つつけるとしたら、

この「薬の神じゃない!」という邦題はどうなのかな?と思う。

 

僕は中国語はわからないが、

原題が「我不是藥神」という表記なので、

たぶん、邦題はこれを訳したものだと思うのだが・・・。

 

一人称をつけて「俺は薬の神じゃない!」とした方が、

なんとなくインパクトが出るような気もするのだが、これも違う?

 

難しいな・・・。

言っておいて、自分でも邦題の良い案が思い浮かばない(苦笑)。

 

まあ、それは別に映画の評価と特に関係はないので、別に良いっちゃあ良いんだけど。

 

ということで、

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。