シンゴさんの、ふとしたつぶやき。

100点満点採点で映画を評価した記事と、あと他愛もない雑談と。

【ネタバレあり】「オッペンハイマー」 オッペンハイマー博士の生涯を見せる素材としては、2024年2月に放送された「映像の世紀・バタフライエフェクト」の方が、この映画よりよっぽど分かりやすかった。

オッペンハイマー」を鑑賞。

100点満点で、58点。


f:id:otomiyashintaro:20240329173507j:image


※今回はネタバレしています。これから楽しみにしている方は閲覧注意。


世間的にはどうか知らないが、
個人的には「ようやく見れる」という気持ちで、待ちに待った「オッペンハイマー」。


しかしフタを開けてみれば、「あ~、こういう構成にしたか・・・」と、
自分の頭の中で何となく思い描いていたものを、悪い意味で裏切る作風であった。


今作は、ロバート・オッペンハイマー博士が、第2次世界大戦終結後にアメリカで盛んになった、
共産主義者をあぶり出すムーブメント、いわゆる「赤狩り」の対象になってしまい、
ソ連に機密情報を流していたスパイ」として(もちろんそんな事はなかった)、
米当局から厳しい尋問を受けるシーンがかなりクローズアップされていて、
それらが原爆開発過程のシーンと行ったり来たりで展開していくのだが、
この構成がとにかく自分にはややこしく見えるというか、
事の成り行きに対する理解を追いつかせるのが大変だった。


「ん?ここのロバート・ダウニーJrは、何のことを言ってんだ?」みたいになる場面があり、
正直に白状すると、あの公聴会のシーンに関しては、
映画鑑賞後も完全には理解しきれていない自分がいる(「それは君の知能指数に問題があるね」という指摘を受けるかもしれないが、そうなのかもしれない)。


日本でも安保闘争やら、浅間山荘事件、よど号ハイジャック事件などの共産主義に関わる事件をリアルタイムで見ていない、
1977年生まれの僕が、アメリカの赤狩りに興味津々になれるか?というと、
やはりピンと来ない、というのが本音であり、
オッペンハイマーにかけられたスパイ嫌疑というものが、
彼の人生を語る上で絶対に外せない部分であるのは、

頭では理解しているのだけれども、実のところスクリーンを眺めながら、

「そこんとこ、めっちゃクローズアップするなあ・・・」と、ところどころ気の抜けた傍観者モードであった。


中盤あたりで、「日本」というワードが遂に出てきた箇所から世界初の核実験(トリニティ実験)を成功させるくだりは、
僕があらためて強調するのも恥ずかしく思うほど、間違いなくこの映画のハイライトである。


自分も世界唯一の被爆国に生まれた日本人として、
やはりこの部分は、どうしても気持ちが入るというか、
心情的には身を乗り出して見るような感覚になったし、
実験成功による開発チームの歓喜のシーンから、
実際に原子爆弾が広島と長崎に落とされた後、
オッペンハイマーがそれまでにも抱いていた原爆開発の微かな疑念と不安が、
「とんでもないものを作ってしまった」というあからさまな苦悩に変貌する過程を、
商用映画として脚色を加えつつも、映像でアーカイブした事にはとても大きな意義があるように思える。


一部団体から、「この映画は、広島と長崎の惨状を、画として描ききっていない」と非難する声があったようだが、
僕はその点に関しては、
この作品の主軸はあくまで「オッペンハイマーという一人の人間を描いた作品」であるので、
被爆地の惨状描写が無いからと言って、
それに対する特に注文めいた感覚や不満を抱くことは無かった。


そのあたりに関しては、
劇中、オッペンハイマーが爆弾投下後の様子を、映像によるレポート(その映像自体はもちろん今作では描かれていない)で知るシーンがあり、
それを見るオッペンハイマーが、(恐らく被爆者の姿を見て)思わず目を背けるシーンがあったので、もうそれで十分伝わるというか。


とにもかくにも、今作はストーリーの展開と構成において、個人的に大いに落胆させられたものがあり、
こんなところで僕の希望を言っても仕方がないのだが、
この題材については、博士の若かりし頃から老年期に至るまでの時系列を、
完全に順序立てて展開していく方が、誰にとっても見やすかったように思えるし、
そう思うならば、正直なところ、今記事のサブタイトルにもあるように、
2024年の2月半ば頃にNHKで放送された「映像の世紀バタフライエフェクト マンハッタン計画 オッペンハイマーの栄光と罪」の方が、
自分にとっては、オッペンハイマー物語として、よっぽど分かりやすくて良い構成だった。


今作の日本での公開前に、
被爆地の広島で、高校生と大学生を対象にした試写会が開かれたという記事を見たが、
今思うと、試写会に招待された若者の中には、実際に今作を見終わった後の僕と同じように、
「えっと・・・、なんか原爆に直接関わるシーン以外、よく分かんないんだけど・・・つうか長くね?これ」と思った子達がけっこういたんじゃなかろうか。


まあ総括としては、自分にとって、現時点で今年一番の期待外れでした。