今回の記事には、部分的に内容を明かした記述があります。
作品未見の方はご注意ください。
9月11日、自宅で「燃ゆる女の肖像」を鑑賞。
日本公開は2020年。
製作国はフランス。
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18世紀後半のフランス。
女性画家であるマリアンヌは、
ブルターニュの孤島の屋敷に住む貴婦人から、
「近々、見合いの予定を控えている娘の肖像画を描いてほしい」と依頼され、
一人船に乗り、その屋敷を訪れる。
婦人の娘の名は、エロイーズという。
エロイーズには元々、姉がいて、
その姉は、ミラノの貴族の男性と結婚する予定ではあったのだが、
結婚を前に自殺してしまい、
妹であるエロイーズが、姉の代わりに嫁ぐことになったのである。
エロイーズの肖像画は、
完成すれば結婚相手に送られるのだが、
結婚を望んでいない彼女にとって、
それは苦痛以外の何ものでもなく、
以前に屋敷に来た男性画家に対して、
エロイーズは自分の顔を描かせなかったという。
そのような事があったので、
エロイーズの母である婦人は、マリアンヌに対して、
「画家という職業を隠して、娘の散歩相手として数日間を過ごし、その際に娘の顔を観察して、絵を仕上げてほしい」
と依頼する。
婦人に言われた通り、
マリアンヌは、表面上はただの散歩相手として、
エロイーズと接することになるのだが、
エロイーズが吐露する内面の苦しみに触れるうちに、
次第に彼女に惹かれていく自分を見出すのであった・・・
という、あらすじ。
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この作品を一言で表すと、
まさに「フランス映画中のフランス映画」
といったところか。
楽器の演奏や、女性たちによる合唱のシーンなど、
「登場する人間が奏でる音楽」が流れる場面というものは存在するのだが、
基本的に、後から映像に添付されたBGM、
といった類いのものは、
全くと言っていいほど無く(いや、僕の記憶では全く無い)、
作品の舞台、ストーリー進行のテンポ、
会話における間(ま)など、
どこを切っても「純度100%のフランス映画」というレベルに達している、
生粋のフランス映画だと言える。
美しい映像によってもたらされる、
「絵画的」とも言えるカットを織り交ぜたシーンの数々は、
抑圧された心を持って暮らしてきたエロイーズが、
遂に自分を解放するまでの過程と、
エロイーズを理解したいと思い始めるマリアンヌの心情の変遷を、
あからさまで視覚的に訴える性描写や、
直接的で情緒に欠けるセリフの応酬に頼る事なく、
非常に丁寧に、繊細に描いている。
そう、この作品は、何もかもが非常に「丁寧」に表現されている。
この手の映画は、
恋愛対象として対峙し合う2人の人間の描き方・・・、
具体的に言うと、
「2人のセックスの描き方」をどう扱うか?という点で、
監督や脚本家の手腕、センスが問われる、
と僕自身は考えるのだが、
主役の女性2人の交わりについては、
行為の詳細を、あまりダイレクトなかたちで描いたりしていないところに、
個人的に好印象を抱いたし、
「決して成就する事はない恋」を描いた映像作品としても、
高レベルの完成度と、センスを携えた作品である事は間違いないだろう。
今作を見ていて、個人的に思い出したのが、
「アンモナイトの目覚め」という作品。
(公開時期としては「アンモナイトの目覚め」の方が、「燃ゆる女の肖像」より後なのだが、僕の見た順番としては、去年見た「アンモナイトの目覚め」の方が先なので、「思い出した」という表現を使わせてもらった。)
これも「女性同士の恋愛と性愛」を描いた作品なのだが、
あれと比べると、
「上品さ」という点においては、
完全にこの「燃ゆる女の肖像」に軍配が上がる。
「アンモナイトの目覚め」は、
この手の作品としては、ちょっと性描写が激しすぎる感じがして、
そこだけが妙に浮いている印象を受けてしまったし、
ラストの「結局は、経済面で何一つ苦労していない上流階級側の人間の短絡的発想で、全てがご破算」というオチが、
個人的に、若干チープに思えた作品であった。
それに対して、
この「燃ゆる女の肖像」における、
2人の別れからラストシーンを含めた、
一連の流れは、かなり良いと感じた。
これ以上のネタバレを避けるため、詳細には書かないが、
特にラストシーンは、
「実のところ、相手に対する思いを断ち切れていないのだけれど、
『この恋は、決して実らない運命にあることを内心どこかで分かっていた』という事実を、
自制心を振り絞って、自らに言い聞かせているように見えるエロイーズ」
を、彼女の表情の変化だけで描き切っているところが凄い(この部分に関しては、完全に僕個人の解釈であり、他の方が見たら、また違った解釈をされると思う)。
・・・と、ここまでかなり高評価を匂わせる書き方をしたが、実のところ、
僕の今作に対する評価は、
100点満点で、65点。
実は、正直に言うと、ところどころ眠たかったっす(笑)。
「上品」かつ「丁寧」で、
なおかつ「センスが高く」、
「よって映画としての完成度が高い」のは、
それはまさに、その通りと言えるのだが、
個人的には、
テンポ面といったところで、
もう少し、ポンポンポンッと物語が進んでいく感じが欲しかったなあ、と思った。
今作は、ウィキペディアを見る限りは、
多くの批評家から絶賛されているらしく、
一般的にも高く評価しているレビューが多く見られる。
しかし、僕の印象としては、
「確かに完成度は高いと思うが、そこまで・・・そこまで絶賛するほどか?」
という感じだ。
繰り返しになってしまうが、
今作は「品があって」、「ハイセンスで」、
「全てが丁寧に作り込まれている」のは間違いない。
しかし、
「ちょっ・・・なんか長くない?これ・・・」
とも思ってしまったし、
今作のポスター画像にも書かれている「映画史を塗り替える傑作!」は、
僕的には、さすがに言い過ぎであるような気がして仕方がない。
というわけで今回は、
「決して悪くないし、映像作品としての完成度が高い事は認めざるを得ないが、
かと言って、褒めちぎるほどのものとも思えない、という感想を数値化したら、これくらい」と言えるような、
65点という微妙な点数を付けさせていただいた。
ちなみに、途中、
「屋敷に仕える召使いの女の子が中絶する」
というエピソードがあって、
これに関するシーンの数々が果たして、
今作のストーリーの中において、
本当に必要だったのかどうか、
僕としては疑問に思うところなのだが、
それはそれとして、
この一連のシーン自体は、かなり印象に残っている。
「えー・・・・この時代の堕胎ってこんな感じなんや。
なんか、色々すげえな・・・」と、
少しばかり驚いた。
という事で、
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。