シンゴさんの、ふとしたつぶやき。

100点満点採点で映画を評価した記事と、あと他愛もない雑談と。

【ネタバレなし】「市子」 幸せは、水面に張った氷の上に置かれているのかもしれない。

(具体的なネタバレはないですが、作品の方向性を示唆する書き方をしているので、未見の方で楽しみにされている方は、閲覧注意です)

 

「市子」を鑑賞。


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仲睦まじい同棲生活を送っていた若い男女。
ある日、男性は、交際相手に婚姻届を差出し結婚を申し込む。

涙を流し感動する彼女。

しかしその翌日、彼女は彼に何も告げず、忽然と失踪する。

彼女が失踪した理由は?
そして失踪せざるを得なかった彼女の生い立ちに隠された秘密とは?

・・・という物語である。


原作となった舞台劇を僕は未見だが、
公開前の映画予告編を見た時から、とても気になっていた作品。


人生における「悲惨」とその過程を、見る者に突きつける、非常に重く、悲しいドラマである。


失踪した「川辺市子」という女性が歩まざるを得なかった道を、
巧みな時間軸の変遷で、一つ一つ明らかにしていく構成は見事であり、
個人的には、最後まで全く飽きが来る事がなかった。


この作品を見終わった時、幸せというものは、常に凍った水面の上に成り立っているような状態なのかもしれない、と思った。


思いがけない、あるいは時間を掛けてたまりにたまった末の、
何らかの衝撃や働きによって、
誰もが氷の下に広がる冷たい不幸の水の中に落ちてしまう可能性を秘めている。


最近見た「正欲」のごとく、救いようのない物語なので、大いに人を選ぶ作品であると思う。

正直、僕自身も、ラストシーンが終わり、エンドロールが流れ始めた時は、
なんとも言えない気持ちというか、けっこう絶望的な気分になってしまった。


この物語に起こるエピソードは、
どの時代のことも夏に発生するが、
市子の人生は常に、極寒の吹雪にさらされている。

100点満点で、87点。