シンゴさんの、ふとしたつぶやき。

100点満点採点で映画を評価した記事と、あと他愛もない雑談と。

【詳細はネタバレはなし】映画「福田村事件」 大災害は人間に肉体的精神的ダメージを与えると共に、狂気のスイッチをオンにする。

【詳細なネタバレはないですが、大枠の顛末は書いているので注意してください】

今回の記事は上記の通り、大筋の内容が分かる記述があるので、それを知りたくない人には、これ以降の文を読まれる事をオススメしません。

 

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9月13日、「福田村事件」を鑑賞。

今からちょうど100年前に発生した関東大震災時に、千葉県東葛飾郡福田村(現在の野田市)で起こった、
あまりにも悲惨な集団殺人事件を取り上げた衝撃の作品。

関東大震災発生当時は、その時代性と、情報伝達の齟齬から、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」などの流言(もちろん事実無根)が出回り、
それによって多くの在日朝鮮人、在日中国人、共産主義者など、その合計約6000人が日本人の手によって虐殺されたという。

そんな混沌とした騒乱の渦中に、この福田村事件が起こったのだが、
この史実が、新聞などによって、世間大衆の目に広く明らかになってきたのは、1980年代後半というから、これには驚く他ない。

映画の前半は震災発生前の、
個々人の人生にとっては重大な事であれ、その後に起こる事を思うと「取るに足りない事」とさえ思える人間模様が描き出される。

この前半部と、事件の核心パートの直接的な関係性の乖離具合が、人によっては違和感を感じるかもしれないし、
前半部のストーリーを「作品の尺を稼ぐためのエンタメ演出」と辛辣に捉える意見もあるかもしれないが、
とにかく事件発生からの描写は、そんな前半の「ああだこうだ」がどうでもよくなるレベルの衝撃である。

今年も色んな映画を見てきたが、間違いなく「見たら忘れない」レベルの、悲惨極まりない地獄絵図が展開される。

誤った情報、思想を妄信し、それらが誤ったものであるだけでなく、
「人道的に許されるものではない」事だとしても、
群衆心理という怪物は、情報の真贋性をボヤけさせ、一人一人の人間の理性と知性を奪っていく。

こうなってしまえば、人間はもはや人間ではなく、捕らえた獲物を一心不乱に貪る動物の群れ・・・、
いや、与えられた指示のみを履行するたけの「機械」と変貌するのである。

人間社会の最も恐ろしい側面を垣間見せてくれるこのような問題提起作を、大手の配給ではないミニシアターのみで細々と上映されている現状が、個人的に歯がゆく感じる。

このような映画は、ヒットするとかしないとかの打算的なものを超えて、
(映画界の色々な大人の事情があるのだろうが)もっと大きな映画館で全国展開されるべきだと僕は思う。

そして「このような事件は情報伝達に乏しい時代だから起こったのだ」という考えがあれば、
それはあまりにも詭弁だ。

SNSを主軸とするインターネットが支配した今の世の中はどうだろう?

AIによる合成画像の精度は、近年ますます向上し、
時にフェイクニュースが真実のように扱われるなど、知識教養の有無関係無しに、ありとあらゆる人々が、ありとあらゆる情報にアクセスできる時代。

現代は、関東大震災が起こった100年前よりも、また違った側面で大変に危うい状況ではないだろうか。

過去に生じた悲劇を、悲劇で終わらせないために、このような映像作品を通した追体験というものは、
再び混迷の渦中に足を踏み入れていると思われる現代社会に暮らす我々に必要なのではないだろうか。

大変にショッキングな作品であるが、多くの人に見てもらいたい。

 

100点満点で、91点。

 

という事で、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。