シンゴさんの、ふとしたつぶやき。

100点満点採点で映画を評価した記事と、あと他愛もない雑談と。

【ネタバレあり】「哀れなるものたち」 男たちによって「生」と「性」を弄ばれた一人の女性の逆襲。

 

「哀れなるものたち」を鑑賞。

100点満点で、84点。

(今回はネタバレを含みます。未見の方はご注意)


f:id:otomiyashintaro:20240129230847j:image

 

久しぶりのR−18指定作品の鑑賞。


「マリグナント 狂暴な悪夢」以来だと思う。


あの映画は、ジャンルとしてはホラー映画であり、
自分が子供の頃に見たら、100%トラウマを抱えるレベルの、
かなりのインパクトを伴ったシーンが登場したので、
僕も「なるほど。これは子供と一緒に見るもんじゃないね」と、
18禁という扱いにはある種納得したが、
今回の「哀れなるものたち」は、
とにかくダイレクトな性的描写が、これでもかというレベルで炸裂するので、
18歳未満の子供はおろか、家族で見るのもオススメできない作品である。


性描写以外に、手術シーンや解剖シーンも登場するし、
これらもオブラートに包むような描写ではない直接的なものなので、
そういった光景が苦手な人にもオススメできない。


物語の概要は、
橋から身投げをした若い女性が、
ある医者によって蘇生手術を施され、
知能指数が幼児並になるものの、
ひとまず健康体を取り戻し、脳が成長するにつれ、様々な体験と学びを得ていくというもの。


ベテラン名脇役であるウィレム・デフォーが演じる医学博士ゴドウィンは、
子供の頃に、父親から虐待とも言える人体実験を数々受けたようで、
その風貌はさながらフランケンシュタインのようだ。


そして、主演のエマ・ストーンが演じるベラが受けた手術であるが、
実は身投げをした時に、彼女は子供を身籠っていて、
博士はなんと、彼女の胎児を子宮から取り出し、その胎児の脳を母体に移植したのである(ひええ・・・)。


ベラはある日、
好奇心から自分の性器にリンゴ(だったと思う)を挿入したところ、
その行為が快感をもたらすことを覚えるのだが、
その感覚に取り憑かれてしまい、
そこから常に「気持ち良い事」を望むようになる。


その後、ベラは、放蕩者の弁護士ダンカン(演じるのは、ハルクでお馴染みのマーク・ラファロ)の甘言にそそのかされ、
ゴッドウィン博士の元から離れる決意し、外の世界へ旅立つことになる。


そこからは、事あるごとにセックスの様子が描かれるのだが、
もちろん、これはただのエログロ描写の見せつけに主眼を置いた映画ではない。


物語が進むにつれ、
ベラの知性も大人並に向上していくのだが、
それに伴って、ベラは社会的な問題に対峙することになり、
ある種の矛盾を抱えながらも、哲学的な論理と思考を携えて、主体的な行動を起こすようになる。


そうしたベラの行動によって浮き彫りになってくるのは、
男たちの傲慢さと、常に力によって支配を試みる愚かな権力志向性である。


振り返って見れば、
ベラに手術を施したゴドウィン博士も、
ベラを蘇らせはしたが、その動機は、道徳心や、人の命を救う医者が持つべきであろう使命感からではなく、
「人体実験」なので、とてつもない暴力を犯していると言えるし、
ベラを外の世界に連れ出したダンカンにおいては、

彼はベラを、自身の性的欲求を満たす存在としてしか捉えていないので、
彼から女性を敬う気持ちなど、欠片も感じられない。

 

物語中盤における、ベラが娼婦として働き始める一連の展開などは、

そのような男たち(男たちが作り上げた社会規範とも言える)に対しての、

真っ正面からのアンチテーゼを汲み取れるシーンがあるし、

娼婦の館内における数々のセックスシーンにも、(娼婦という職業への是非は別にして)女性の持つたくましさが描かれると共に、

男性たちに対する痛烈な皮肉が込められているように感じた。


物語の最終盤に至っては、かつてのベラの夫と名乗る軍人が現れ、

この男こそが、男という生き物が持つ醜悪な要素を煮詰めたかのような最悪な人間なのだが、

その男の横暴な振る舞いと要求に対しても、ベラは毅然と立ち向かう。

 

男たちによって、人生を翻弄された一人の女性が覚醒していく様は、

僕の目には、まさに「男主導の社会が生んだ歪みへの問題提起」のように映ったわけである。

 

本作はアカデミー賞に11部門もノミネートされたとのことだが、
主演のエマ・ストーンは、これで主演女優賞を取るような気がする。


上映時間は2時間20分ほどと、少し長めであるし、
内容的にも人を選ぶ作品であると思うが、個人的には、かなり楽しめた作品であった。