「ファースト・カウ」を鑑賞。
100点満点で、57点。
今から200年ほどくらい前のアメリカで、
貧乏な白人男性と、これまた貧乏な中国人移民の男性が出会い、
意気投合して「お菓子を作って売る」商売を始める、という話である。
これだけだと、なかなか良い話ではないのか、と思ってしまうが、この二人は、金が無さすぎて材料さえ買えないので、
あろうことか、人様が飼っている牛のミルクを、バレないように夜中にこっそり盗み搾り、それを材料にしてお菓子を作っていたのである。
これはイケない。
と言っても、二人共、根っからのワルみたいなキャラではなく、
どちらかというと、赤貧に喘ぎながらも、より良く生きるために何かしらの活路を見出したいと、
自分のできる範囲の事をして必死に生きている、ごく普通の人間なのである。
二人が売るお菓子(ミルクと砂糖と小麦粉などを混ぜ油で揚げた、いわば沖縄発祥の「サーターアンダギー」的な見た目のものである)は、
二人が暮らす集落で大いに評判になり、
店を開けば瞬く間に売り切れるほどの勢いとなったが、何せ材料の一部は「盗品」である。
この後どうなっていくか、皆さん、大体想像がつくであろう。
この作品は、前回取り上げたホラー映画「TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー」と同様、
「深入りすることの怖さ」を我々に提示してくれる。
まあ、この「ファースト・カウ」については、
深入りも何も、最初の出発点(ミルクを盗んでいる)からしてダメなのだが(笑)、
やはり人間は目の前に金がチラつくと、
悪い事をしているという自覚がありつつも、ついつい止められなくなる愚かな生き物なのである。
「魔が差す」という言葉があるが、
これは誰にでも起こりうる事であると思う。
金銭所有の多寡は、人の良心や、道徳心といった「人生を豊かにする要素」に、かなり直接的な影響を及ぼす。
「経済的に十分に不自由のない生活ができる、ある程度以上の金を持つ階層に位置する全ての人は幸福である」、
という論法は成り立たないが、
「明日のメシもままならない、という階層の全ての人は幸福ではない」という論法は、
ほぼ完全に成立するだろう。
主人公の二人は、知恵も能力もない者ではなかった。
知恵も能力もあったのに、その活かし方と進む方向を間違ってしまったのだ。
悪い事はバレるものである。
二人はバカではないので、そんな事は薄々わかってはいたものの、貧困が彼らにブレーキを踏ませなかった。
何とも悲しい物語である。
とまあ、作品の概要を述べるのはここまでにして、ここからは僕の感想に移るが、
実のところ、この映画、中々に「眠たい映画」なのだ。
主人公が二人共、口数が少ないので会話少なめ、BGMも少なめで、おまけにそのBGMが牧歌的でゆったりとした曲ばかり。
そして、一つ一つのカットに割く時間もけっこう長め・・・と、
二人の男が菓子作りを思いついて、「さあここからが本番です」といった流れになるまでが、とにかく眠い。
上映開始から、多分10分くらいしか経っていないあたりから、他の観客の寝息が聞こえてきたし、
前の晩はそれなりに睡眠が取れていた僕も、
話が本格的に動き始める前に、だんだん瞼が重たくなってきて、途中、危うく寝落ちしそうになった。
中盤くらいからは、そこそこに面白くなってきてそれなりに集中して見れたが、
そんなことよりも何よりも、この物語には大きなツッコミどころがある。
まず、二人が作り始めたお菓子の材料には、牛のミルクが必要である。
そして、二人が暮らす集落には、牛が一頭しかいない。
そしてそして、その牛を所有している身分の高い英国紳士風の男が、途中に登場するのだが、
その男は、「せっかく牛を買ったのは良いが、なかなか乳を出さんのだ。どうしたもんか?」と悩んでいる(いや、盗まれてますけど?)。
そしてそしてそして、その英国紳士は、主人公が作って売っているお菓子を食べて絶賛したのだが、
二人に、「君ら今度、家に来てクラフティ(卵やミルクを撹拌して作った生地をグラタン皿などに流し、ブルーベリーなどの果実を入れて焼き上げたお菓子)を作ってくれないか?」と依頼するのである。
・・・・おい、英国紳士よ、さすがに疑えよ(笑)。
材料の調達先は、どう考えても、あんたの飼ってる牛しかないぞ(笑)。
結局、英国紳士は、「気づくの遅すぎ〜」というタイミングで事実を掴んだのち、
二人のミルク泥棒を追いかけ、その後は切ないエンディングに向かっていくのだが、
この「いや、根本的にどうなん?」と感じたツッコミどころが、僕としてはかなりの減点材料であった。
作品そのものの雰囲気は悪くなかったのだが、スローすぎるテンポと、それに拍車をかけるが如く、劇中の会話が全般的にかなりつまらないのが、個人的には痛かった。