シンゴさん日記

100点満点採点で映画を評価した記事と、あと他愛もない雑談と。

「浅草キッド」 ビートたけしの物語であると同時に、たけしの師匠・深見千三郎の物語。

 

今日は自宅で映画「浅草キッド」を鑑賞。

Netflixオリジナル作品。

 

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僕のブログで初めて取り上げるNetflixオリジナル作品だが、

この作品と「イカゲーム」見たさに、ネトフリに加入した。

 

説明不要であり日本人なら知らぬ者はいない、と言っても過言ではないお笑い芸人ビートたけしの自叙伝的小説「浅草キッド」をベースに構築されたこの作品。

 

脚本と監督を務めるのは、劇団ひとり

 

僕は現在44歳であるが、ビートたけしという存在は、僕らの世代でその影響を避けては通れないであろう芸人の一人である。

 

今の30代中盤くらいまでの若い人たちにはピンとこないかもしれないが、

現在において40代から60代中盤くらいの世代の男達にとって、80年代から90年代中盤あたりにかけての全盛期のビートたけしという存在は、

まさに正真正銘の「笑いのカリスマ」であったと同時に、

「社会の矛盾を喝破するオピニオンリーダーの一人」であった、と言っても全くもって誇張したものではない、

という僕の私見に頷いてくれる方も少なくないのではないだろうか。

 

僕も若い頃、たけしさんの執筆した書籍は数多く読んでおり、この「浅草キッド」も当然のごとく読了している。

 

という事で、物語の顛末はほぼ把握しているし、

たけしさんが、どのようにして名もなき場末の芸人見習いから、華々しい芸能界の頂点にのし上がっていったか、という道のりも、ある程度頭に入っているので、

僕のこの映画に対する一番の興味は、

主演の柳楽優弥ビートたけしをどのように演じているのか?という事であった。

 

僕はこの映画を見る前、

柳楽優弥ビートたけし?なんかピンとこないな・・・」という思いだったのだが、

結論から言うと、そんな僕の心配は、映画が始まって間もない地方のキャバレーで酔客と喧嘩を始めるシーンで吹き飛んだ。

 

偉そうな物言いになってしまって大変恐縮なのだが、全編通して「柳楽優弥でよかった」、「柳楽優弥だからよかった」と言える、とても素晴らしい演技であると思う。

 

喋り方やハスキーな声質に始まり、

片方の肩を上げる「たけしと言えばアレ」とも言えるクセ、

背を丸めがちにガニ股気味に歩く独特の歩き方など、たけしさんは「特徴の塊」であり、

ややもすると誰が演じても「たけしのモノマネをしている人」になりかねないような難しい役柄を、

特徴を掌中に捉えながらも、その演技は「パロディ」にはならない絶妙の着地点で演じきっている、と僕は感じた。

 

こうなると、その完成度の高い主役を引き立たせるために、次に何が大事になってくるのか、という話になるのだが、それは主演のまわりを固める脇役であろう。

 

これも言わずもがな、みんな素晴らしい。

 

中でもビートきよしを演じる、お笑いコンビ「ナイツ」の土屋さんが「たしかに現時点で、きよし役はこの人しかいないかも」と思わせる、

とても巧みかつ自然体に思える演技を披露しており、

柳楽さんのたけしとの漫才シーンは、しっかりとした「ツービート」であった。

 

そして何と言っても、その脇役陣の中で・・・いや、脇ではなく、ほぼ「準主役」としてビートたけしという存在の対比として描かれるのが、

大泉洋演じる、たけしの師匠・深見千三郎の存在である。

 

「このまま一生、場末の名もなき芸人で終わりたくない!」という思いのもと、ストリップ劇場を飛び出し、漫才を武器にテレビの世界に進出するたけしと、

「テレビに出てる芸人なんか芸人じゃねえ。漫才なんていう与太話なんて、あんなもんは芸じゃねえ!」と、

あくまで舞台芸にこだわり、客足の遠のいたストリップ劇場の幕間でコントを披露し続ける深見。

 

時代に愛されるがごとくお笑いスターの階段を駆け上がっていく深見の弟子たけしと、

 

劇場の資金繰りに苦しくなった末、ついには芸人としてメシを食えなくなり、会社員として生計を立てていかざるを得なくなる、たけしの師匠深見。

 

物語の後半からは、たけしの怒涛の快進撃が、深見千三郎という芸人の悲哀をより鮮明に浮かび上がらせていく。

 

妻にも先立たれた深見は、最終的に、自身のタバコの不始末により自宅で焼死する、という非業の死を遂げるのだが、

結末はわかりながらも、あらためて映像化されたものを見ると、やはり涙なくしては見れなかった。

 

ストーリーの流れ、演出面などで全体的にクセがなく、

俳優陣の演技も素晴らしい、非常に見やすい一本といえる。

 

ただそんな中、個人的に少し残念だなと思ったのは、

深見千三郎氏が亡くなったのが59歳なのだが、

その割には、演じる大泉洋さんが若く見えすぎた。

 

もう少し老けメイクをしていてもよかったのではないかと思えるくらい、見た目に関しては「まんま大泉洋」だったので、それが少しばかりの違和感と言えば違和感かと。

 

あと老けメイクといえば、

冒頭と物語の最終盤に登場する「現在のたけしさん」を、

柳楽さんが「たけしさんの顔を模した特殊メイク」で演じるのだが(ちなみに声はたけしさんのモノマネで有名な松村邦洋さん)、

正直これには、そのあまりのたけしさんぶりに冒頭のシーンで「これはすごい!」と思ったものの、

やはりよく見ると、隠しきれない「特殊メイク感」にちょっと違和感を感じてしまって、

「うーん、これならもういっそのこと、現在のたけしさんは、たけしさん本人に演じてもらったら良かったんじゃないか?」と僕は思ったりした。

 

ただ、もしもたけしさん本人が演じたら、師匠のお墓を拭いてあげるシーンは「そういう事は演技としてやりたくない」と、絶対に拒みそうな気もするのだが・・・(わからんけど)。

 

けどまあ、あれは柳楽さんが特殊メイクをしてまで演じ切ることに意味があるのかな・・・。

 

それと、たけしさんが歌う名曲「浅草キッド」も冒頭と最後で2回流れるのだが、

2回流れるのは僕にはちょっとクドかった。

 

僕としては最後だけにして欲しかった。

 

やっぱりあの曲の持つ「必殺」感というか、

(やらしい言い方かもしれないが)あの曲の効用を最大限に高めるには、最後で一回だけ流す方が良かったような気がする。

 

僕にとってマイナスはその3つくらいかな。

 

僕の評価は100点満点で81点。

 

ビートたけしの物語と同等かそれ以上に、

芸人ビートたけしの原点である、深見千三郎という芸人を強く印象づけた作りに、

劇団ひとり監督のこだわり、というか「芸人への愛」を垣間見たような気がした。

 

という事で、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。