昨日は自宅で「アルキメデスの大戦」を鑑賞。
2019年公開の日本映画。
太平洋戦争での戦艦大和の撃沈から遡ること12年前、
海軍では新たな造艦をめぐる会議で、2つの意見がぶつかり合っていた。
一方は、
「これからは航空戦が主流となるので、(多くの戦闘機を搭載させるための)空母が必要だ」という意見。
もう一方は、
「大砲を主たるものとする、多くの武器を備えた巨大戦艦(後の戦艦大和)こそが、大日本帝国を勝利に導く」という意見。
軍の上層部は、もっぱら新型巨大戦艦の建造を推し進めたいのだが、
「(図体がデカく、小回りの利かない)巨大戦艦は、敵側からは格好の標的にもなり、これからの空中線が主体となる戦いにおいて、全く理に適っていない」と主張する。
しかし、この会議で、
戦艦推進派の平山忠道技術中将(田中泯)が設計した巨大戦艦の模型が披露されると、
同席していた巨大戦艦推進派はもちろんのこと、
会議を取りまとめる役の大臣でさえも、
新型戦艦の見栄え、美しさに魅了されてしまい、
巨大戦艦建造は、事実上の承認を得たような雰囲気になってしまう。
その後、山本たちは料亭で、
新造艦決定の最終決議に向けた打開策に向け、会合を開くのだが、その話し合いの中で、
「巨大な船体に大砲、機関砲など、多くの武器を備えた戦艦の方が、空母建造の経費よりも安く見積もられているのは、どう考えてもおかしい」という結論に至る。
それぞれの造艦に係る経費は、
空母の予算見積もりが、9300万円。
戦艦の予算見積もりが、8900万円。
そう、巨大戦艦派の出した予算見積もりは、常識的に考えて安すぎるのである。
明らかに、見積もりに不正ないし、
カラクリがあると疑った山本たち空母推進派は、
その時、同じ料亭で芸者遊びに興じていた一人の青年と出会う。
彼の名は櫂直(かい ただし:菅田将暉)。
東京帝国大学を中退し、アメリカのプリンストン大学に留学が決定していた、
日本数学界において「百年に一人」と称されるほどの注目の逸材であった。
「彼なら、巨大戦艦建造の不当な(としか思えない)経費見積もりの真実を暴けるかもしれない」と、山本たちは櫂に白羽の矢を立て、
海軍少佐に抜擢するのだが、
その顛末やいかに・・・・というのが物語のあらすじ。
先に点数から。
僕の評価は100点満点中、80点。
正直、見る前はあまり期待していなかったのだが、
思いのほか良かったし、
戦争を題材にした映画でこんな言い方をすると、非難されるかもしれないが、けっこう楽しめた。
ただ、この映画は、
史実を元にしたフィクションの漫画が原作で、
櫂直という天才青年は、実在の人物ではない。
この時点で、歴史マニアや、史実にうるさい人からしたら「0点」かもしれないし、
特に「思想が右寄り」の方が、この映画を最後まで見たとしたら、
1990年2月の新日本プロレス東京ドーム大会での、かつてのアントニオ猪木のように、
「やる前に負ける事考えてやるバカがいるかよ!」と、
テレビ画面や、PC画面にビンタを食らわすかもしれない(往年のプロレスファンにしかわからないネタですいません)。
唐突にアントニオ猪木の名を出して、困惑された方もいるかもしれないが、
ちなみに、これが元ネタである↓
(ここより、映画の話から少し脱線します)
更にちなみに、上の動画を紹介した以上、
この猪木・坂口組と対戦することになる、
橋本真也・蝶野正洋組の試合前インタビューも紹介せざるを得ない。
当時のテレビ放送では、先の猪木の理不尽なアナウンサーへの暴力に続いて、
カメラが橋本蝶野組へと切り替わり、
プロレス史に残る伝説の名(迷)シーンが生まれた。
橋本真也の「時はきた。それだけだ」という言葉の直後の、
「笑いを我慢する」蝶野正洋の顔に注目である(↓)。
橋本真也が、あらかじめ決められた台詞をなぞるように、カッコつけて放った「くさい言い回し」に、
笑いをこらえきれなかった蝶野正洋が、必死でコワモテの表情に戻すこの仕草を、
当時、中学生の僕はリアルタイムで見ていたのだが、
「蝶野、笑ってるやん!!」と、テレビの前で思いっきりツッコミを入れたのは懐かしい思い出である。
さて、話を映画に戻そう。
先ほども言ったように、映画は面白かったが、「フィクションであったことに、ちょっとだけ残念」という気持ちがある。
僕は学生時代、
数学は大の苦手だったが、
その割には「数学にまつわる雑学」や「天才数学者の伝説」的な話がけっこう好きで、
この映画の主人公・櫂直にもけっこう惹きつけられるものがあっただけに、
実在しないと後で分かった時には、
なんとなく「存在していて欲しかった」という気持ちになった。
造船に関するあらゆる知識を全く持ち合わせていない人間が、
その数学の知識と天才的計算能力を持ってして、
戦艦建造に掛かる実際の経費を、たったの2週間でほぼ正確に弾き出す、
などという痛快な話が、実際の史実としてあったなら、こんな興味深い話はないのだが、
そんな出来すぎた話は、まあ、やはり無いのである。
でも、先にも書いたように、思いのほか興味津々で見通せたのである。
史実に組み込んだフィクションとわかって、
少しがっかりしつつも、
「なかなかよく出来た話だったな」と思ったし、物語の進むテンポも良かった。
櫂と共に行動する田中少尉(柄本佑)の存在感溢れる脇役ぶりも良かった。
ネタバレになるので詳しくは書かないが、
物語のクライマックスで、
平山中将が秘密裏に櫂を呼び出して、
大和建造の真の目的、意図を明かし、
その告白を受けて、櫂が今までの彼の努力をちゃぶ台返しにするような決断を下す事については、
正直「どうなんだろうな?」と思う部分がある。
ここは人によって、さまざまに意見の分かれるシーンかもしれない。
僕としては、平山中将の考えは、
為政者の端くれらしい「大善を得るために、多少の犠牲が出るのは致し方ない」
という残酷な発想であることには間違いない、と思うので、賛同はできない。
しかし、「じゃあ、どうすればよかったと思う?」と聞かれても、
僕はそれに対して「それは、わかりません」と言うしかないのだが。
CGの作り込みが甘い部分があったり(CGはいまだに、日本映画の課題の筆頭であると思う)、
櫂の仕事ぶりに対して「いや、寝なさすぎだろ。倒れるぞ」とか、
数式に当てはめるだけで、色々な戦艦の建造費をズバズバ当てていく場面を見て、
「さすがにそれはちょっと出来すぎじゃないか?」と思わせたりして、
色々とツッコミどころはあるし、
全編を通しての、やや「漫画チック」な演者たちの台詞の交わし合い(原作が漫画なので、そうならざるを得ないと思うが)に、
見る人によっては、ある種の「軽薄さ」を見出してしまうかもしれないが、
個人的には、見応えのある力作に仕上がっていると感じた。
最後に、この映画を見ていて、あらためて菅田将暉さんは、いい役者さんだと思った。
数学に長けた人物を演じるということは、
台詞も事前知識も、かなり覚えることが多いだろうから、
大変に難しい役どころだと思うが、見事に演じきっている。
今後、年齢を重ねた時、どんな味を出しているのかと、楽しみに思える役者さんの一人である。
彼の出演作品には今後も注目していきたい。
という事で、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。