8月6日、
自宅で「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」を鑑賞。
2019年アメリカ製作。
日本公開は2021年。
--------ー
アメリカを代表する化学企業である、
「デュポン社」を訴えた弁護士の物語。
事の始まりは、1998年、
ロブ・ビロットという弁護士が、
ウェストバージニア州で農場を経営する一人の男から、
ある調査依頼を受けたことから始まる。
農場主が言うには、
「デュポン社が廃棄した汚染物質によって、
自分の飼っている牛190頭あまりが殺された」
との事。
半信半疑で調査を始めたロブであったが、
デュポン社から入手した資料の中に、
「PFOA」という、馴染みのない単語を見つける。
そして、このPFOAを調べていくうちに、
ロブは、デュポン社が40年にも渡って、
この発ガン性のある有害物質を、危険なものであると知りながら、
大気中や河川に垂れ流してきた、
という事実を知ってしまう・・・という、あらすじ。
----------
実話に基づく物語である。
これを読んでいる読者の皆さんは、
普段、料理をする人なら尚更だが、
一度は「テフロン加工」や「フッ素樹脂加工」、
という言葉を聞いたことがあるのではないだろうか。
フライパンの商品説明によくある、
食材が「焦げ付かない」「くっつかない」ことを売りにした、
アレのことである。
ちなみに「テフロン加工」と「フッ素樹脂加工」は、
加工方法としては同じものであり(厳密に言うと、2層以上のフッ素樹脂コーティングを、テフロン加工という)、
「テフロン」という名称は、
デュポン社の開発したフッ素樹脂の登録商標名称である。
で、問題となるのは、
このテフロンを製造する過程で使用する、
「ペルフルオロオクタン酸(PFOA)」という物質が、
どうも発ガン性が高いようだ、という事なのだ。
調べていくうちに、
「これは大変な問題だ」という事で、
正義感に火がついたロブ・ビロット弁護士は、
孤軍奮闘といったかたちで、調査、裁判の準備を進めるが、
なにせ相手は、超がつく大企業である。
自社の利益にとって不利になるような事柄は、
莫大な資金力と権力を駆使して、
何が何でも「潰し」にかかってくる。
デュポン社がロブに対して送りつけてきた、
あまりにも膨大な資料の数(部屋全体を埋め尽くしてしまうほどのダンボール箱の量)は、
まさに原告側に「裁判を諦めさせる」ための作戦とも取れよう。
他の弁護士も「やめておけ」と忠告するほどの、
この無謀な闘いに挑むロブに、
極限状態に追い込まれるほどの大きなストレスがかかる。
この映画は、近代化以降の世界で、
今日もとどまることを知らない、
経済活動による環境汚染の実態と、
その恐ろしさについて、
考える機会をもたらしてくれる作品であると同時に、
弁護士という職業のつらさ、厳しさも垣間見せてくれる一本である。
僕の評価としては、
100点満点で、85点。
その作風や演出手法に、
全くもって派手さを感じさせない、
非常に「地味な」作品だ。
映画を娯楽的芸術という観点から捉えると、
この作品は、その要素をかなり排除しており、
人によっては、特に最初の方などは、
かなり退屈に思えるかもしれない。
僕自身も、見始めてからしばらくして、
「これは・・・かなり眠くなりそうなやつか・・・?」と思ったのだが、
物語が進むにつれ、
じわじわとその内容に引き込まれ、
この人類にとって非常に由々しき「公害問題」に、
途中からは眉間にシワを寄せながら、
最後まで、集中力を途切らせる事なく見終えることができた。
中盤で描かれる、
デュポン社が行った「人体実験」とも言える事柄は、
身の毛がよだつ恐ろしいものであり、
同時に、それを知らずに実験台にされた従業員の事を思うと、
思わず怒りが込み上げてくる内容だ。
非常に暗澹とした気分になる映画であるが、
この作品で取り上げられた問題は、
僕や皆さんにとっても、
決して他人事ではない。
今後も、あらゆる地域において、
いつどんなことで、
僕たちが生きるために必要としている、
水や空気や、食料などが汚染されるか分からないし、
すでに汚染されたものを、
日々、身体に取り込み続けている可能性は、
もはやゼロではないだろう。
日本でもかつて、
その頃の時代に比べると、
今の企業モラルは全体的に、
かつてよりは幾分マシになっているとは思うが、
基本的には「利益を追求する組織体」として成り立っている企業が、
今後の未来において、環境を汚染するような事をもうしない、
という保証など、どこにもない。
デュポン社は、
2015年以降、この物質を製造プラントから放出しない事に合意したらしいが、
完全に使用を止めるのは無理だ、
と主張している。
というのも、
フッ素樹脂(「ポリテトラフルオロエチレン」という)を製造するには、
現時点では、
このPFOAが必要不可欠であるから、との事。
PFOAは製造過程においてのみ使用され、
硬化プロセス後には微量のPFOAしか残留しないらしく、
デュポン社は、適切に硬化されれば、
製造されたフライパンには、
計量不能な程度のPFOAしか残らない、
と主張している。
ちなみにデュポン社は、
「このPFOAに代わる、より安全な代替物を模索中」としている。
・・・との事であるが、
この映画を見た後に、これを読んでも、
疑り深い僕は「本当かよ?」と思ってしまう。
タイトルにもある通り、
この映画を見終わったあと、一瞬、
「もう、フッ素加工のフライパンを使うのをやめようかな?」
と思ったくらいだ。
でも多分、今後も使うだろう(あっさり)。
まあ、そこまで神経質になって、
ストレスを感じながら生きるのも、
なんだか、それはそれで違うような気がするし。
誰かの家に呼ばれて、
料理を振る舞われた際に、
チラッと台所に目をやって、
「あのフライパン・・・」と考えながら生きるのは、かなり息苦しい生き方だ(笑)。
ひとまず、
フッ素樹脂加工のフライパンについて特集した記事があるので、
そのあたりを詳しく知りたいと思った方は、
「フライパンのススメ」という、下のリンクの記事(↓)を参考にしてほしい。
基本的に、
この記事を読む限りは、
フッ素コーティングのフライパンは、
適切に使えば、特に人体に大きな影響はないようである。
(「フライパンのススメ」↓)
という事で、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。