昨日は、自宅で「アップグレード」を鑑賞。
2018年のアメリカ・オーストラリア合作映画。
妻と仲睦まじく暮らしていたグレイ・トレースは、
自動運転に頼らない、昔ながらの車の愛好家であり、整備の腕に長けていた。
グレイは、修理した車を届けに、
妻と共にエロンという男の元に出かける。
そこでエロンは、
「ステム」と名付けられた人工知能チップを、グレイ夫妻に紹介する。
人間の能力を補助し、潜在能力を拡張させるという「ステム」。
グレイの妻は、
ステムについて大きな関心、興味を持つが、
グレイ自身は、
ステムに懐疑的な態度を示した後(要するに「人間にしかできない事があって、それを自分は尊重したい」といった考え)、
エロンの住まいを後にする。
帰宅の途にあったグレイ夫妻は、
自動運転制御の車に乗っていたのだが、
そこで、なぜかシステムが誤作動を起こし、
車が暴走。
車は障害物に乗り上げ、転倒してしまう。
そして、意識が朦朧とするグレイ夫妻を、
車の外で待ち受けていたのは、
謎の犯罪者グループだった。
果たしてグレイ達の運命は・・・・という、あらすじ。
近未来が舞台の、
人工知能をストーリーの主軸に据えた物語は、
古今東西とても数多く存在するだろうし、
それらの作品の質は、まさに玉石混交であると考えられるが、
この「アップグレード」については、
僕としては、とても面白かった。
先ほどのさわりの部分から、もう少しだけ内容を述べさせてもらうが、
結果的に犯罪者グループに襲われたグレイは、
大きな傷を負い、
首から下が麻痺して動かせなくなる、
いわゆる障害者となってしまう。
絶望感に苛まれ、生きる希望を失ったグレイであったが、
そんなグレイの入院先にエロンが訪れ、
「ステムなら元の体に戻れるかもしれない。
手術を受けてみないか?」と、
グレイに打診する。
結果的にグレイは身体能力を取り戻すどころか、
普通の人間にはない特殊な能力を獲得することになるのだが、
これが彼の人生を大きく狂わせる要因となるのだ。
まず、この作品で僕が感心したのは、映像面。
この映画で描かれている未来の世界は、
かなり現実味があるというか、
今の世界の延長線上に具現化される近未来って、本当にこんな感じになるんじゃないだろうか?
と思わせるものがある。
ガソリン車や、
もはや廃墟のような雰囲気のビルなど、
アナログなものが、まだしっかりと残っていて、
「そう遠くない未来」の描き方として、かなりいいセンスをしているな、と感じた。
そして、ステムを体内に埋め込んで、
我が家に帰ってきた時のグレイの目の前に広がる景色を、
グレイの背後から追うカメラワーク。
キャラクターが画面中央に固定されたままで、
キャラが移動すると、キャラではなく、まわりの景色が動いていくという、
まるで3Dアクションゲームのような動きの演出に「おおっ、カッコいい」となったし、
犯罪者集団との戦いのシーンにおける、
ステム主導の、一切の無駄のないスムーズな身体の動きもカッコよくて、
視覚的に非常に面白い。
ところで、
犯罪者集団に襲われて、
体の自由を奪われ(ほぼ殺された、とも言える)、
手術を受けた後、無敵のような存在になって、自分の全てを奪った連中に復讐するという、
この話・・・
かつて大きな話題になったヒーローの物語に似ていないだろうか?
そう、僕の頭に思い浮かんだのは、
1980年代の終盤に公開され、世界的に大ヒットした「ロボコップ」である。
瀕死の重傷を負った警官を、
金属のボディで覆い、
感情を持たないサイボーグとして生まれ変わらせるという発想は、
まだインターネットや人工知能というものが、ほとんど一般的に認知されていなかった頃ならではの産物であると思うが、
「アップグレード」で示された「能力拡張技術」は、
まさに「ロボコップ」の現代的新解釈と言えるのではないだろうか。
この作品におけるグレイは、
ロボコップのような「法と秩序を守るための」存在ではなく、
単純に、事件の真相を知るために、
そして「犯人が何者なのか?」という私的な追求のために行動しているが、
僕の目には、
この映画は、2010年代終盤における、
「ロボコップへのアンサームービー」に思えて仕方なかった。
犯人を殺すシーンは、
ホラー系の映画や描写が苦手な人には、注意が必要だろう。
かなりグロい描写がいくつかある。
それもそのはず。
監督・脚本のリー・ワネルは、
これまた公開当時、大きな話題となった
「ソウ」シリーズの脚本を手掛けた人である。
「ソウ」シリーズを見たことのある人で、
この「アップグレード」の監督が、
「ソウ」の脚本を書いた人だと知っている人なら、
この映画が辿る結末もなんとなく予想がつくかもしれない。
タイトルに「核心部のネタバレはなし」と書いたので、
もちろん最終的なオチの詳細は書かないが、
一見、
「なーんだよ・・・結局、それ?」と、
一瞬思わせながらの・・・・実は違いました、
という、ほんの少し「マトリックス」も思い起こさせる結末で、
僕としては唸るものがあった。
上映時間は約1時間30分で、
ストーリーのエンジンがかかり始めてからは、ラストまで、
緊張感を途切れさせるようなダレた展開はない。
もっと壮大な世界観を描けそうな題材であると思うので、
物語が割と狭い範囲で収束しているのが、
人によっては物足りなく感じるかもしれないが、
近未来系SFアクション映画としては、
この作品はかなりの優秀作品であると思う。
僕の評価は、100点満点で90点。
シンプルに「これ、おもしれえ」と思った一本。
人工知能と共に歩む人類の行く末として、
かなり先の未来かもしれないが、
こういうのは現実にあり得るかも・・・と思わせるものがあって、少し怖い感覚を覚える。
ということで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。