*今回は、「悪い夏」と「デュオ 1/2のピアニスト」にネタバレがあります。
未見の方はご注意ください。
まずは「教皇選挙」(ネタバレなし)。
100点満点で、85点。

ローマ教皇を選ぶ、
カトリック教会最重要イベント「コンクラーベ」に渦巻く陰謀や思惑、内紛を描いた作品。
こういった内容の作品を作れて公開できるという事は、
カトリック教会の権威というものも、
一部の熱心で熱狂的な信者以外の一般大衆のレベルにおいては、
もうすっかり地に落ちてしまっているのかなあ?
と勘繰ってしまうものがあった。
「神に選ばれし指導者」といっても、
まあ結局のところは皆、欲望無しには生きられない人間なのである。
そういった肩書をお持ちの方の中には、
本当に私利私欲に囚われていない、
利他と慈愛の精神に溢れた、素晴らしい人格者の方も数多く存在すると思われるが、
結局、こういう世界も、
一般の会社なんかとそんなに変わらない
「地位と名声、肩書(「権力」となると、こういう世界では、それはまたちょっと違うのかもしれない)を手に入れるための駆け引き」が繰り広げられている。
かなり地味な作品で、
正直、全体的にテンポ感がもっさりしているのだが、
僕は、コンクラーベに招聘された枢機卿たちのお互いの懐の読み合いや駆け引き、
スキャンダルの追求といった部分が面白く、
最後まで飽きずに見ることができたし、
ラストのオチも中々に「ほえぇ・・・」と唸る感じで、
個人的に満足度は高かった。
今年のアカデミー賞で、「アノーラ」が作品賞を取るくらいなら、
こっちの方が良かったんじゃないの?と思ったりもしたが、
まあもしかしたら内容的に、
色々な「大人の事情」が働いたのかもしれない。
続いて、「悪い夏」(ネタバレあり)。
100点満点で、75点。

生活保護受給者のケアワーカーとして働く公務員が、
貧困ビジネスで利益を得ようと企てる反社の男の罠に引っかかる物語。
生活保護の問題をテーマにした作品では、
2021年に公開された「護られなかった者たちへ」という作品も僕は見たことがあるが、
個人的にツッコみどころだらけのあっちよりも、
僕はこの「悪い夏」の方が好きだ。
もちろん、「悪い夏」もツッコみどころはあるが(最後、なんでそんなにタイミングよく全員集結するの?しかも台風直撃の時に?)、
「さすがにそれは、オチのつけ方としてやり過ぎっすわー」という
「護られなかった者たちへ」に比べたら、
僕は、「悪い夏」の方が好き。
メガネの、超真面目で、
「曲がった事が大嫌いです!」みたいな思想バリバリの女性公務員が、
「私たちの最大の武器はねぇ、『潔白さ』よ!(キリッ)」とか言っちゃってた割には、
実は不倫していた(好意を抱いていただけで、まだ不倫には至っていなかった可能性もある)というのには、
ちょっとニヤリとしてしまうものがあった。
「君も真面目そうな感じして、そういうことするんやね」という、
他人の禁断の一面を垣間見た時の、
あの、一瞬自分の中から、フワッと湯気が立ち上がるような興奮(笑)。
あの壮絶な修羅場での豪雨のキスシーンには、
「へいへいへい、お姉さん、潔白じゃ無かったんすかあ?」と、
唸るものがあった。
続いて、「デュオ 1/2のピアニスト」(ネタバレあり)。
100点満点で、70点。

幼少期から、「お前ら2人とも絶対にプロのピアニストにする。絶対に」という、
ある種モンスター的とも言える教育熱心な父親に育てられた双子の姉妹に遺伝性の病気が発覚し、
一時は2人してピアニストの道を断念しようとするが、
双子ならではの発想で、その困難を乗り切る話。
途中見ていた段階では、
70点という点数よりももっと高い点数をつけても良いと思ったのだが、
最後の最後は、僕的にツッコまざるを得ない展開だったので、
この点数になってしまった。
それはコンサート当日になって、
今まで上がり症とは無縁のはずだった姉の方が、
なぜか急に怖気づいてステージに上がれなくなる唐突な展開に、
若干の違和感を感じたのだが(まあ、ココはまだいい)、
そのステージに中々出てこない時間の間に、2台目のピアノをセッティングしたあたりから、
「おや?」と思い始める。
その後、姉はなんとか気を取り直してステージに登場するのだが、
その時、指揮者が明らかに不服そうな面持ちで、
姉に「帰ってくれ」と呟いた瞬間、
「おいおい、それはおかしいんじゃない?」と、僕は思った。
これは、指揮者に事前に、
「あの〜・・・、先生、申し上げにくいんですが・・・、
当日ちょっと予定変更がありましてぇ・・・、
双子が2台のピアノで同時に弾くことになったので・・・・・、
すんません!よろしく頼んます!」
と知らせずに、ずっと秘密にしてたってこと?
ええ?そんな事って、ある?
事前に報告して、仮に指揮者に、
「いや、そんなやり方(2人のピアニストが同時にステージに上る)やったら、俺降りるわ」
と言われるのが怖かったのだとしても(あの指揮者、かなり気難しいヤツだったので言えなかったという線は、あるにはある)、
常識的に考えて、
「先生!そこはそう言わずに!
まあ一回だけでもリハーサルしてみてください!」
てな感じで事前報告するだろうし、
「実は予定していたソリストが病気で、前みたいな弾き方ができなくなりました」というのも、
こんなの最重要事項なので、
絶対指揮者に言っておいた方が良い、
いや、言っておくべきだと思うのだが、
僕の見る限り、明らかに指揮者は、
「おいおい、ピアノ2台ってどういう事やねん?」と、
演奏前に困惑してそうな感じだったので、
「え?これって、結局ぶっつけ本番なん?」という目で見ざるを得なかった。
この物語は実話をベースにしているとの事だが、
この演奏直前の流れは、実際のところはどうだったんだろうか?
「ええ、全部このとおりですよ」と言われたら、
僕ももう、そこは「あ、すんません」と引き下がるしかないが、
どうもあのクライマックスは、映画として面白く見せるために、
けっこう盛ったかのような香ばしいニオイが漂っていたので、
ツッコませていただいた。
演奏シーンは良かったし、
途中までけっこう楽しめていただけに、
この最後のシーンで、なんだかモヤモヤしたものを残されてしまって、
素直に「いい映画だった」とは言えないものがある。
という事で、今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。