シンゴさんの、ふとしたつぶやき。

100点満点採点で映画を評価した記事と、あと他愛もない雑談と。

【ネタバレあり】「シビル・ウォー アメリカ最後の日」 一定数のアメリカ人が、鑑賞後に「いや、いくらなんでも流石にこれは無い」とつぶやく姿が目に見えそう。

「シビル・ウォー アメリカ最後の日」を鑑賞。

100点満点で、35点。

 

f:id:otomiyashintaro:20241005105836j:image

 

※今記事にはネタバレがあります。

未見の方はご注意ください。

 

予告編を見た時点ではけっこう期待していたのだが、

本編を見終わって(というか、割と前半の方を見ている時点で)、

「あー、これまたA24の悪いクセが出とるなあ」と。

 

要するに、

「トガッたテーマとストーリーを匂わせる予告編で客を惹きつけておいて、

いざ本編を見てみたら思ってた以上に中身が薄い」という、

「A24節」が炸裂している(A24の作品ならなんでも、と言っているわけではないので悪しからず)。

 

「もしかしたらアメリカで内戦が起きるかも」という発想自体は、

昨今のアメリカの世論の分断ぶりを見るに全くの絵空事のようには思えないし、

2020年の大統領選挙後に起きた一般市民による「議会乱入事件」のような光景を目撃した以上、

アメリカという国が現実において、

何かしらの「火種」をくすぶらせている事も否定はできないだろう。

 

そのような背景もあって、

少なからず僕はこの映画に対して、

「一体どのような作品に仕上がっているのだろう?」と興味津々であったのだが、

蓋を開けてみれば、

アメリカの内戦を追う報道カメラマンのロードムービー」だった。

 

違うんだ。

僕が見たかったのは、これじゃない。

 

今作を見た多くのアメリカ人(アメリカ人に限らず)が、

「ああ、本当にこんな事(アメリカで内戦)になったら嫌だなあ。

こんな風になってはいけない」と思ったのならば、

今作は、分断の究極の到達点である戦争を回避するための啓蒙作品として、

一定の機能と役目を果たすかもしれない。

 

しかし僕が思うに、一定数のアメリカ人は今作を見て、

真面目に先のような事を思うよりも、

「いや、いくらなんでも流石にこうはならんよ・・・」

と思うのではないだろうか?

 

今作の致命的な欠陥は、

「なぜ、アメリカがここまでの内戦に至ったのか?」という背景と経緯を全く描いていない事にある。

 

なぜ描いていないのか?

 

いや、多分描けないのだ。

 

具体的に描こうとすると、

現時点でのアメリカにおいては、

必ず「共和党民主党」というワードを使わざるを得ない事になり、

そのワードを使うとなると、

「一方の勢力に原因がある」

という描き方にならざるを得ないからである。

 

そして今作には、

その「共和党」と「民主党」というワードは、一度たりとも登場しない。

 

なので今作では、

保守勢力の強いテキサス州と、

リベラル勢力の強いカリフォルニア州という、思想的に相反する地域が、

一体どういうわけなのか「西部同盟」なるものを結び、

それがどういう経緯を辿って手を組む事になったのかも全くもって不明のまま、

最終的には、彼らの武装勢力ホワイトハウスを襲撃するという、

あまりにも現実的に納得感が皆無で、

どちらか一方の政治団体からのクレームの回避も計算した、

荒唐無稽かつ弱腰な作品に仕上がってしまった。

 

アメリカの分断は、今後さらに混迷を深めそうな様相であるし、

内戦のような事は100%起こらないとも言い切れないような雰囲気も見て取れるが(まあでも、まずもって起こらないだろう)、

それを映画で描きたいのなら、

「なるほど。これならあり得るかもな」と少しでも思わせてくれるような、

もう少し腑に落ちる理由が欲しかった。

 

僕としては、

途中から「で、なんでこんな事になったんよ?」という疑問符が頭にこびり付いたままで、

最終的に「大統領を射殺しました。以上」

という、

あまりにも雑な結末をもってエンドクレジットが流れた時には、

「ああ、結局この作品もアイデア一発勝負だったか」と、失望しかなかった。

 

かなり辛辣な言い方をさせてもらうが、

「報道カメラマンたちの行動や、彼らの身に降りかかる事を通して、見る者に色々考えさせる」という方向性に逃げたな、と。

 

今作は、トガッているようで、全然トガッていなかった。

 

見る前にこの映画に期待して、

見た後に「いや、自分が見たかったのはこういうのじゃ無いんだよ」と思った人は、

僕だけでは無いはず。

 

視覚的インパクトを優先した、掘り下げの浅い一本だった。