シンゴさん日記

100点満点採点で映画を評価した記事と、あと他愛もない雑談と。

「大河への道」(核心部のネタバレはなし) 「あれ?」と思ったツッコミ箇所が2箇所あって、それが自分の中でマイナスだったが、良い映画ではあると思う。

 

5月25日、なんばパークスシネマにて

「大河への道」を鑑賞。

 

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2022年の日本映画。

 

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千葉県香取市の職員である池本(中井貴一)は、

ある日の会議で、

地域の観光を活性化させるための案を求められる。

 

何のアイデアも持ち合わせていなかった池本だが、

苦し紛れに「伊能忠敬を題材にした大河ドラマを作ってはどうか?」と提案。

 

そして、この案が意外にも通ってしまう。

 

動き出した大河ドラマ制作プロジェクト。

 

池本は、日本を代表する大物脚本家、

加藤浩造の自宅を訪ね、この物語の脚本を書いてくれるように頼む。

 

最初は断っていた加藤だが、

池本の粘りもあり、

加藤自身も伊能忠敬が成し遂げた仕事に感銘を受け、

この仕事を引き受けることになった。

 

後日、脚本の草稿を、加藤から受け取ることになった池本たちであったが、

そこに現れた加藤は「脚本は書いていないし、書けない」と言う。

 

困り果てた池本と、市の職員一同。

 

加藤が、いったんは引き受けた脚本を断る、

その理由とは・・・

という、あらすじ。

 

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落語家・立川志の輔創作落語

伊能忠敬物語 ー大河への道ー」を原作として、

作られた本作。

 

落語の噺らしい、

軽妙な笑いを散りばめ、令和の現代と、

江戸の過去を行き来する、新感覚の時代劇とも表現できよう。

 

歴史に関しては、とんと疎い僕でも、

さすがに伊能忠敬の名前は知っているし、

控えめに言っても、

「すごすぎる」と形容できる、大偉業を成し遂げた人物だと思う。

 

伊能忠敬は、

測量のため、自ら全国を歩き回り、

日本初の「ちゃんとした日本地図」の制作に携わった中心人物であるが、

志半ばでこの世を去ってしまった。

 

なので、最終的に地図を完成させたのは、伊能の弟子たちだ。

 

このことについては、僕も以前から知っていた。

 

テレビ番組か何か、あるいは本でさらっと読んだか、

自分の記憶の根拠がはっきりしないのだが、

とりあえず知っていた。

 

しかし、この映画で語られる

伊能忠敬の死後、弟子たちが取った行動」については、恥ずかしながら全く知らなかった。

 

日本史好きな人なら、

「そんなん、結構有名やで」という事かもしれないが、

なんせ歴史に疎い僕からすると、

「ああ、そうやったんや・・・」と、

少し驚いた次第である。

 

詳細はネタバレになるので、

ここでは詳しく述べることを控えるが、

これは中々のドラマであると思う。

 

本当に、この物語で語られている通りだったのかどうかはさておき、

「よくもまあ、地図が完成するまで3年もなあ・・・」と、感銘を受けたわけである。

 

おおむね好感の持てる、良い映画であると思うが、

劇中のコメディ的な要素に関しては、

映像で表現する笑いとしては、

「ちょっとベタすぎるかな」

と感じた箇所が、チラホラあるのと、

(落語として聞くと、また違う印象を受けるだろう。それは後述する)

 

タイトルにもある通り、

「おや?」と思う箇所が2箇所あった。

 

まず、

加藤が、池本たちに「伊能忠敬は地図を完成させていない」と言い放ったあと、

その詳細を聞いて、

池本と、松山ケンイチ演じる「木下」という、池本の部下が、

ふたりして「え〜?!」と驚くシーン。

 

あれは、違和感ありあり。

 

伊能忠敬大河ドラマ制作のプロジェクトを始めよう!」と、

中心になって動いている人物で、

伊能忠敬記念館」にも行っている2人。

 

からしたら、

「いやいや、アンタらもそれくらいは下調べして、知っとかなアカンやろ」

という内容である。

 

だって、ウィキペディアにも書いてあるのに、

この無知っぷりには驚きである。

 

2つ目は、物語の後半、時代劇パートのシーン。

 

西村まさ彦演じる「スパイ的な」人物に対して、

伊能の手伝いをしていた者の一人が、

伊能についての「真相」を打ち明け、

そこから、そのスパイが「その話の証拠を示せ」と要求するシーンがある。

 

結局、

そのスパイは「ニセの情報」をつかまされ、

「伊能の真相」にたどり着けないのだが、

これはちょっとおかしいと思う。

 

その「真相」の証拠を確かめることは、

確かに大事なことだが、

その情報を仕入れた時点で、

まずは上司に報告するだろう、普通。

 

それなのに、本当かどうかわからない「証拠」を求めて、

ひたすらに単独行動を取り続けて、右往左往しているのである。

 

「上様、伊能に関わる者から、このような話を聞きましたが、いかがなさいますか?」と、

まずは窺いを立てるのが、

スパイの任務として最優先ではないのか?

(って、スパイになったことのない僕が言うのも何だが)

 

この2つのシーンが、僕としては少々残念に感じた。

 

この映画に対する僕の評価は、

100点満点で、75点。

 

ただ、クライマックスにおいて、

完成した地図をお披露目するシーンは、

これは壮観である。

 

僕は実際に完成した地図の原寸大というものを知らなかったので、

幕府に献上された地図が、その全貌を露わにした時の感動は、かなりのものがあった。

 

あらためて、

「これを人工衛星もドローンもない時代に、歩いて・・・?ウソやろ・・・?」と、

伊能忠敬並びに、伊能を慕って長年根気強く作業を続けてきた弟子たちの業績と、

その人生に、大いなる感動を覚えた。

 

ちなみに、

映画では描かれていない豆知識というか、

後日談であるが、

この地図は、あまりの完成度の高さに、

情報として諸外国に盗まれては大変なことになるとして、

幕府が「国家機密」として扱い、

庶民の目には触れさせなかった。

 

しかし残念なことに、

のちに、この地図作成事業の監督をしていた高橋景保(これを演じるのも中井貴一)が、

この地図を持ち出し、

ドイツ人医師シーボルトに献上していた事実が発覚し(いわゆる、シーボルト事件)、

高橋は死罪に処せられたのであった・・・。

 

あと、映画本編の評価には直接関係ないが、

エンドロールで流れる玉置浩二の歌が非常に良い。

 

やはり、この人の歌声は絶品。

 

今回、映画に関しては、75点と、

ちと辛めにつけさせていただいたが、

これも物語として、全体的に非常に魅力のあるお話であるが故で、

実際に、原作である志の輔師匠の高座を、

この目と耳で、生で見て、聞いたら、

間違いなく最高だと思う。

 

落語としてなら、

今回、僕が気になった箇所も、

さほど気にせず楽しんでしまう可能性は大いにあるだろう。

 

実際、この創作落語は、

2011年の初演以来、再演を繰り返すも、

「最も鑑賞券が取れない超人気演目」として、

落語界に君臨しているそうである。

 

という事で、

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。