シンゴさん日記

100点満点採点で映画を評価した記事と、あと他愛もない雑談と。

「プラットフォーム」 この映画の設定には根本的な欠陥があると思う。

昨日は自宅で「プラットフォーム」という映画を鑑賞。

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2019年制作のスペイン映画。

日本公開は2021年1月。

 

トロント国際映画祭の中でもユニークな作品が集まる「ミッドナイトマッドネス部門」で観客賞、

さらにクセの強い作品が揃う(らしい。僕はよく知らない)のシッチェス・カタロニア映画祭でも最優秀作品賞を含む4部門を受賞するなど、一部で高く評価されている作品だ。

 

物語は、ゴレンという主人公の男が謎の施設で目を覚ますところから始まる。

 

そこは鉄筋コンクリートで造られた巨大な縦長の建造物で、床の真ん中に畳4畳分くらいはありそうな四角い穴が空いている。

 

穴を除けば、自分がいる階層の部屋と全く同じ構造の閉鎖空間がいくつも下に存在し、

穴は一体どこまで深いのか、目視では確認できないほどに深い。

 

天井を見上げれば、やはり穴が空いていて、上の階にも、さらにその上の階にも同じような部屋がいくつも続いている。

 

部屋には基本的に2人の人間がペアで収容されるようになっており、部屋の壁に設置された緑のランプが点灯すると、

上から食事を載せた台(プラットフォーム)が降下してくる。

 

最上階にいる人間は、出来立てで手付かずの豪勢な食事を最初に楽しめるが、その下に位置する人間は、上の人間たちが食べきれなくて残した残飯を食べる事になる。

 

当然、下の階層に行けば行くほど食べ物は無くなっていき、下層階では食べ物にありつけなかった人間同士が殺し合って人の肉を食べたり、

あるいは餓死したりする様が繰り広げられる確率が格段に高まるのだ。

 

ゴレンが目覚めたとき、彼は48階にいたが、そこで彼に用意されたものは、見るも無惨に「上の人間たち」が食い散らかした残飯。

 

果たしてゴレンの運命は・・・

という感じである。

 

見終わってから(見ている最中もだが)、まず一言。

 

「汚ねえ・・・」

 

そう、とにかくこの映画、描写が下品で汚い。

食い散らかされた残飯、飯の食い方、グロ描写、登場人物の立ち居振る舞い。

何もかもが汚い。

 

まずこの時点で、僕は面食らった。

残飯を食わないと生きていけないという設定の時点で「オエーッ」という感じなのだが、

とにかく品のある食べ方をする人間が、ほぼいない。

 

早く食べないと、食事を載せた台が下の階に降りてしまうから、みんな鷲掴みで手当たり次第食べるんだろうけど、全編にわたって、見ていて気分の良いものではなかった。

 

しかし僕はこの点については、マイナスの評価として減点はしない。

 

監督はおそらく、こういった描写を見せる事で、「人間の根源的な欲望」や「社会におけるピラミッド構造」への皮肉を表現したかったのだろうと思うので、

汚い食い方や、殺し合いの場面は、そのメッセージを際立たせるための手法、見せ方として尊重はしたい。

 

さて、この映画、アイデア自体は面白いと思うのだが、どうにも出てくる人間たちに魅力がない。

 

いや、魅力がない、というより「それぞれの人となり」がほぼ語られないから、一人一人の魅力が伝わってこないのだ。

 

僕がもしこのアイデアを思いついて、あるいは誰かに渡されて、監督として映画を撮るとしたら、

登場人物たちがこの謎の施設に入ってくるまで、どのような生活をして、どのような人生を歩んできたかを絶対に説明したい。

 

社会でそれなりに成功といえるものを手にしてきたが、今は誰かが食べ残した残飯を漁る事になっている、という対比や、人間性の変容を描きたい。

 

「あんなに良い事を言ってたのに、空腹になったらこんな事するんだ・・・」という、人間の悲しさ、切なさを見せたい。

 

その方が映画として、絶対に「厚み」が出ると思うからだ。

 

とにかく、この映画には「エモーション」が欠けている。

 

それぞれのパーソナリティが非常に希薄で、どの階の人間も一様に「傲慢で下品」で、人間性に幅がないのである。

 

もちろん例外もあるにはあるのだが(車椅子の老人など)、

あまりにも出てくる人間たちの「ストーリー」が欠けているので、僕としては、ただただ窮地に追い込まれていく人間の愚かな行動を傍観するだけだった。

 

そして、作品全体的に「シュールな作品」として割り切って見ようとしても、この映画はあまりにも説明不足。

 

主人公ゴレンが、何をして、どういう経緯でこの施設に入ったかもよくわからないし、

入ってくる際に持ち物を一つだけ選んでいいという設定も、うまく活かしきれていない感じ。

この施設で半年過ごしたら「認定証」がもらえるという話も、後々何かあるのかな?と思わせておいて、特に何もない。

 

そもそも食事の載った台は、反重力が働いているかのように空中に浮かんでいて、

台のまわりに何の動力源も無いのがあまりに不思議。

 

「いや、この台、なんで浮いてるん?何で動かしてるん?」と、全く謎であった。

 

ハリーポッターの世界なら「奥さん、これ魔法で動いてまんねん。」と、

何でも「魔法だから仕方ねえっすよねー。」で済ませられると思うのだが、

一応、設定はどう見ても現代の地球っぽいので、あれは「この映画はファンタジーですから」と監督が力説したとしても、僕は絶対に納得がいかない。

 

そして、この映画を語る上で、ここが最重要なポイントなのだが、この台は「上から降りてきている」のである。

 

皆さんもエレベーターに乗った事は当然あると思うが、上から降りてきて下まで行ったものは・・・・

そう、下から上がってくるのである。

 

あそこで生活する事になったら、生活開始の初日で「この台って、上がってくるんかな?」と思うのが普通の思考回路であると思うし、

 

最上階に行きたいと思ったら、

「最下層が一体どこまでかわからんけど、この台に乗り続けて底まで達したら、今度は上に行くしかないやろ。」という発想には行き着くと思うのだが、

登場人物、大体みんないい歳した大人のくせに誰も思い付かず(笑)。

 

あれだけの人数がいたら、「今日、徹夜で台が上がってくるの確認したろ。」と思うヤツがいてもいいだろう。

 

なのに、ほぼ全員「うわー!今度は下の階に移動させられたやんけーー!(涙)」と、嘆き悲しんで殺し合いとかしてる始末。

 

からしたら、何やってんだい?てな感じである。

 

ちょっと考えたら、台の上に乗って試してみてもいい手法なのに、

あろう事か、主人公は「いや、そっちかよ。」という不完全な作戦を思いついて大惨事を迎えるのだから、僕も呆れてしまった。

 

僕の提案したこの脱出方法が正しいのか間違っているのかは、映画を最後まで見ればわかる。

(ちょっとネタバレくさい事を言ってしまった・・・かも)

 

この部分こそが、僕が今回のレビューのタイトルで書いた「この映画の設定における根本的な欠陥」である。

 

この点は、かなり致命的だと思うのだが。

 

僕はこの映画を見ていて、監督は良くも悪くも「行動力があって、思いついたら後先考えず突っ走るタイプの人」なのかな?と思った。

 

監督はこの映画を

「これ、めっちゃオモロいアイデアやん!細かい事は抜きにして映画にするんや!」という初期衝動に従って、撮影していったのかもしれない。

 

まあ、知らんけどね(笑)。

 

まあ、何にせよ、ツッコミどころが多いし、色々と課題が多い作品であると思う。

この設定なら、脚本次第ではもっと面白く、もっとドラマチックに出来たかもしれない。

 

この映画を見ていて、僕は「キューブ」という映画のことを思い出したのだが、

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あの作品は「閉鎖空間」という材料をうまく料理した佳作だと思う。

 

一方、この「プラットフォーム」は「食べること」をテーマにしながらも、「閉鎖空間」という、作り手の手腕次第では美味しい料理に変えられる素材を、うまく調理しきれなかった作品だと思う。

 

監督の伝えたいメッセージは、何となく理解できるんだけど。

 

僕の評価は100点満足で、35点。

 

ちなみに、ここで紹介している「キューブ」は、日本の製作陣によってリメイクされ、現在、全国の劇場で公開されている「CUBE    一度入ったら、最後」の方ではなく、オリジナルの方なのでお間違いなく。

 

というわけで、今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。