さて、
「プラダを着た悪魔」(2006年公開の映画のタイトル)ならぬ、
「白衣を着たムッツリどすけべ盗撮マニア」だったTさんのお話の後編である。
幸いな事に、発見されたカメラには、Tさんが見たいと望んでいたものは、何も映っていなかったらしいのだが(それでも女性職員をはじめ、多くの同僚に心の傷を負わせたことは間違いない事実)、
極めて残念な事は、Tさんには当時、奥さんもいて、子供もいた事。
旦那が盗撮犯。
お父さんが盗撮犯。
息子が盗撮犯。
奥さんにとって、子供にとって、親御さんにとって、こんな地獄があるだろうか。
Tさんの犯した罪は重い。
Tさんの仕事机には、どこかの写真館で撮影したのであろう、家族全員が写った記念写真が貼ってあった。
女子トイレにカメラを仕込んだ男は、逮捕されるまでの間、それを見て何を想い、日々を過ごしていたのだろうか?
そして今、Tさんはどこで何をしているのだろう?
もしかしたら改名して、僕らかつての同僚と極めて会う確率の低い、どこかの田舎の町か村で、一人でひっそり暮らしているかもしれないし、
海外に移住しているかもしれない。
これはあまり想像したくないが、自分の犯した過ちに苦しみ、自ら命を絶ってしまったかもしれない。
こんな事を言うと、当時、嫌な思いをした女性職員たちから猛バッシングを受けるかもしれないが、
僕自身はTさんに対して、個人的な恨みなどないので、今のTさんが、どこでどういう生活をしているのか、少し興味がある。
会えるもんなら会って、当時の心境や、あの事を今どう思っているのか?など、個人的に聞きたい気持ちがある。
悔い改めたTさんが、心を入れ替え、罪を償うために、再び社会に貢献するために、何か自分の出来ることをして、現在の日々を頑張っている最中である事を願っている。
・・・そして、話は変わるが、タイトルにあった「女子トイレ勘違い侵入事件」である。
これは、実は僕のことなのだが。
まず初めに言っておきたいが、僕は犯罪めいた事は何もしていない。
ただ単に間違って女子トイレに迷い込んだ、というだけの話だし、もしかしたら他人の目からは、主任の盗撮事件とセットでタイトルに冠するほど、大した事ではないかもしれない。
しかし、僕にとっては人生の分岐点だった、と言えるかもしれないくらい、心に残った出来事だ。
どういうことかと言うと、
先ほどのT主任による盗撮事件から数ヶ月後、僕がかつて在籍していた会社は、新社屋を建設して本部ビルを移転する、という大きな節目を迎えていた。
盗撮事件があった当時、僕が働いていた事業所は築60年以上も経った建物で、老朽化が著しく、数年前から新社屋の建設が始まっていた。
2018年に新社屋は完成。
徐々に旧社屋からの引っ越しが始まった。
僕の所属していた部署は、他の部署よりもいち早く新社屋に引っ越しする部署となり、
僕自身も、新社屋からすぐ近くにあるマンションに引っ越しして、新生活を意気揚々と始めていた。
(ちなみに、そこからわずか1年ちょっとで、思うところあって、その職場を辞めることになる。)
真新しいビルで、構造もよく把握していないので、迷子になるとまでは行かないが、どの部署がどの建物の何階にあるのか、という事がまだしっかりと頭に定着していない。
そんな中、僕は仕事中に用を足したくなったので、廊下にあるトイレに向かった。
僕は男であるが、小の時でも洋式トイレに座ってするタイプの「座りション派」なので、
トイレに入るなり、一目散に洋式トイレの部屋に入って、ズボンとパンツを下ろした。
そして便器に腰掛けたところで、かすかな違和感に気づいたのである。
「・・・なんか、さっき一瞬見ただけやけど、
このトイレって洋式便器の数、多いよな・・・。
普通、4つ(くらいだったと思う)もあるか?男子便所に。
・・・・男子便所。
・・・男子・・・あれ?そういえば、入ってくる時、男性用の小便器ってあったっけ・・・・?」
と思い浮かんだ瞬間、背筋に寒いものが走った。
「違う!ここ、女子トイレやないかい!!」
そう、僕は慣れない新社屋において、考え事をしていたのか、ボーッとしていたのか、知らず知らずのうちに女子トイレに入ってしまっていたのだ。
見つかった時に「間違ってしまった」と弁明しても、間違いなく女性たちからの白い目は避けられない。
まして、数ヶ月前に「盗撮事件」などという黒歴史が発生したばかりである。
僕が「いや、違うねん、これは・・・。」と、必死に潔白を証明しようとしても、
「ウソ・・・シンゴさんも、そうだったんですか?(怒りと失望と涙)」と、
「ど変態野郎2号」の烙印が押されるのは間違いない。
いや、烙印で済めばまだ良い方だ。
不名誉な形で職場を去る事さえ、脳裏をかすめた。引っ越してきたばっかりやのに。
そうして頭が真っ白になりそうになりながら、慌ててパンツとズボンを履き直す。
急いでドアを開け、
「頼む!頼むから、誰も(特に女性)廊下を歩いていないでくれ!!」と必死に祈りながら、
廊下に飛び出した。
結果は・・・誰もいなかった。
助かった。
新社屋の引っ越しがまだ始まって間もない頃で、移動してきている従業員の数は少なく、
また幸運な事に、警備員さんも、その時は配置されていなかったので、おそらく(僕の勝手な予想だが)防犯カメラも、その時点では作動していなかったと思う。
その後、仕事に戻ったが、九死に一生を逃れた安堵感からか、体がふわふわと浮いているような感覚で、作業する手も若干震えそうになっていた。
人生において、そう多くない回数しか使えないであろう、守護霊の加護的なカードを、こんな事で一枚使用したかもしれない事に若干の悔しさはあったが、何はともあれ助かった。
翌日、気持ちが落ち着いたので、いちかばちか、ウケるかな?と思って、同じ部署で働く20代半ばの同僚の女の子に、間違って女子トイレに侵入してしまったことを話してみた(いや、黙っとけよ俺)。
その子は、
「ええ!ホンマですか?!あんなこと(盗撮事件)があったから、もし見つかったらシンゴさん、ヤバかったですよ!」と笑っていた・・・・
というお話。
男性の皆さん、くれぐれも間違って女子トイレには入らないように気をつけてくださいね。
というわけで(笑)、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。