シンゴさん日記

100点満点採点で映画を評価した記事と、あと他愛もない雑談と。

僕の生涯ベスト小説は吉村昭の「漂流」

吉村昭さん(故人)という小説家をご存知だろうか。

昭和の高度成長期の頃あたりから平成の中期にかけてご活躍なさった小説家であるが、

僕の印象では、失礼ながら、そんなに世間一般の誰もが知る作家、という知名度ではないと思う。

 

作風としてはノンフィクションが主で、

「光る壁画」という作品は、確か僕の記憶では、NHKでかつて一時代を築いたテレビ番組「プロジェクトX〜挑戦者たち〜」で放送された世界初の胃カメラ開発の参考文献として、この小説が使われたと記憶している。

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この作品は僕も読んだが、とても良い作品である。

 

そして、この作品を読むより前に、僕が吉村昭さんという作家を知るキッカケになった作品が、知る人ぞ知る名作「漂流」である。

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あらすじはというと、

 

江戸時代、土佐の船乗り長平は、自分の乗る運搬船が難破して無人島に到着。

そこは火山の溶岩が固まってできた岩だらけの島だった。

草木もろくに生えておらず、農耕が出来そうな肥沃な土もない。

漂流した男たちは、島にやってくる渡り鳥を捕らえ、その肉や卵を食べ、羽毛を衣服とし、助けが来るなど望むべくもない絶望に苛まれながら、12年間という歳月を生き抜き、

遂には奇跡的な方法で故郷に帰ってくる・・・というものである。

 

江戸時代の事なので、当然、映像の記録などないが、当時の記録がちゃんと文書として残されているので、これは実話である。

 

この本を手にした時は、はっきり覚えていないが僕は20歳かそこらだったと思う。

 

近所の「天牛堺書店」という本屋さんの一角にあった古本コーナーで、なにか面白そうな作品はないかな、と適当に物色していた時に見つけた。

 

文庫版の背表紙に書かれたあらすじを読んで、なんとなく面白そうと思い、買って家に帰って読み始めたのだが、これが止まらない。

 

たしか3〜4日程度で読み終えたと思う。

 

極限の状況に立たされた時の人間の生への執着と、絶望に押し潰されそうになりながらも、心のどこかで奇跡を信じて、故郷に帰る事を諦めない男たちの執念に涙する。

 

ネタバレになるので、最後にどのような手段で絶海の孤島から故郷に帰ってくるのかは言えないが、もう最後なんて号泣である。

 

僕は、この小説から「絶対、諦めるな」

「絶対、腐るな」という事を教えられた。

 

と言いつつ、諦めた事は数多くあるし、腐りかける事も日常ままある。

 

人間的にはまだまだである。

 

人生において、長平たちが直面したような究極レベルの苦難にさらされる必要などないと思うが、

「一体、この環境でどうやって生きていけばいいのか?」というほど過酷な環境に置かれた時、人は苦しいことがありながらも平穏に暮らしていた日々に対して、真に「感謝」する気持ちが芽生えるのだろう。

 

そして感謝と共に生き抜いた人間には、仏の心「仏性(ぶっしょう)」が現れる。

 

この「仏性」という言葉もこの小説の中で説かれる大事なキーワードだ。

 

僕はほんの2、3年前のある時、今まで思い浮かばなかったのに、この小説は映画化していないのかな?と、ふと思い調べてみたのだが、

なんと1981年に映画化されていたのである。

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北大路欣也さん主演で。

しかも他もけっこう豪華キャストだ。

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全然知らなかった。

映画としてはあまりヒットしなかったのかな?

現時点ではDVD化されていないようだし、配信もないようだ。

今見たいと思ったらVHSしか手段が無い。

しかしもうビデオデッキなど持っていない。

 

ちょっとこれは一度見てみたい。

 

あるいは再映画化されないかな?

 

何だかこの作品は、食べる物も着る物も、娯楽も満ち溢れているのに、幸せと感謝の気持ちが薄い(ような気がする)今の日本人に見てもらった方が良い作品のような気がするのだ。

 

というわけで、

今日も最後まで読んでいただきありがとうございました。